第20章 時を越えて〜分岐〜秀吉ver. ※R18あり
〜秀吉目線⑤〜
『あんたとあのお姫様じゃ釣り合わないよ』
お初の言葉に目の前が真っ暗になる。舞との時間を過ごす中で『こんな俺でも良いのかもしれない』と思い始めていた矢先に、目を逸らしていた事実を突きつけられて身動きが取れなくなる。
そんな俺に気付かないのか
「あのお姫様、あんたの素性知ってるの?知らないんでしょ?あんたが売女の子で父親も分からないなんて。今は立派な武将様かもしれないけど、人様のものを盗んで生きてきたあんたが、織田の姫様となんて…ねえ?」
お初は思い出したくもない過去をベラベラと喋る。
「あんたのような人間には、あたいみたいな女じゃないと無理。あのお姫様があんたの過去まで背負えるわけないよ。だからさーー」
「もうやめてくれ。」
お初の言葉に逆に冷静になり、自分を取り戻した俺は喋り続けるお初を遮ってそう言った。
「お前の言いたいことは分かった。…お前の言う通りだ。」
「じゃあ…」
「だがな、俺はもうあの頃の俺じゃない。過去は消せないけど、未来は変えられる。」
お初の目を真っ直ぐに見てそう告げた俺に
「人はそう簡単には変わらないよ。…そう言えばあんた、あのお姫様と寝たの?」
「…お前に関係ない。」
「ははっ、やっぱりね。そりゃあ簡単には手出せないよね。あのお姫様、あんたが夫婦になるつもりも子を成すつもりもないって知らないんでしょ?」
「……」
「あんたみたいな男を受け入れる女なんているわけない。相手はお姫様だしね。…なんなら、またあたいが相手しようか?」
「…いい加減にしてくれ。」
「はっ?」
「いい加減にしてくれ!もう俺は『藤吉郎』じゃない。『豊臣秀吉』なんだ。放っといてくれ。」
「…なに言って…」
「もう俺に関わるな。次に俺に声を掛けようものなら…」
そう言って、お初を睨み付け刀の柄に手を掛けた俺に
「わっ、分かったよ!ちょっと懐かしくて声掛けただけだから!じゃあね。」
焦りながら言うと、お初はその場を去って行った。
「…どうして今ごろ……」
お初の前では賢明に平気なフリをしたが、封印したはずの過去を知る人物に再開した衝撃は、容赦なく俺を打ちのめした。『卑しい血』それはいつまで俺を苦しめ続けるのか。
舞との日々で癒されたと思っていた傷から血が噴き出す。
(やっぱり俺は舞とは釣り合わない)
その事実を今更ながら痛感し、その場に崩れ落ちた。