第20章 時を越えて〜分岐〜秀吉ver. ※R18あり
〜秀吉目線④〜
話が逸れたが、そんな生い立ちの俺が子を持つと言うことは、俺の血が引き継がれるということ。こんな俺の血を引き継いで生まれる子はかわいそうだ。正当な血筋に卑しい血が混ざることを、もしかしたら舞や光秀だって嫌がるかもしれない。そう思うと、舞と一線を越えることができなかった。交わったからと言って子ができるとは限らない。でも、万が一を考えるとどうしても踏み込めなかった。
とは言え、好きで好きでしょうがない女を抱きたくない訳がない。理性と本能の狭間で俺は揺れ動き、出口のない迷路で苦しんでいた。
そして俺はそんな苦悩を悟られまいと、舞の前では必死に大人で余裕がある風に取り繕う。素直な舞はそんな俺を疑うことなくいつも明るく楽しそうにしていた。舞の笑顔を見れば、悩みなど忘れて俺も笑顔になれる。『同じ時を過ごせる』それだけで、俺は心から幸せだと思えた。
そんなある日。
見廻りのために城下町を訪れた俺に
「藤吉郎!」
一人の女が声を掛けて来た。
「ーーーお前っ!…お初…」
俺が信長様と出会う前に一緒に暮らしていた仲間のひとり。『初』だった。
「久しぶりだね。」
「ああ」
「あんた、何も言わずにいなくなっちゃったから。」
「ああ」
動揺で短く返事することしかできない俺と
「ずいぶん、立派になったんだね。」
饒舌に話すお初。
「秀吉様?」
一緒にいた家臣に不思議そうに問いかけられ、ハッとした俺は
「すまん。先に行っててくれ。」
家臣にそう告げると
「ちょっと来い。」
そう言って、お初を脇道に誘い込んだ。
「突然いなくなって悪かった。」
俺が詫びると
「別に。あたいらはそんな義理堅い関係じゃないし。実際、何も言わずにいなくなる奴は何人もいたから。」
「ああ。だが、世話になったのにって気になってた。今日、お前に詫びることができて良かったよ。」
そう俺が言うと
「…あんた『秀吉』って名前なの?」
俺の言葉に答えるでもなくお初が問う。
「…ああ」
「もしかして、あんたが『豊臣秀吉』?織田信長の右腕なんだって?」
確信を突いてくるお初に
「…ああ」
そう答えればお初は
「そう。立派になったんだねえ。あの頃、あたいと寝てた男がこんなに出世するなんてね?」
何か含んだように言う。
「なにが言いたい?」
そう聞いた俺に
「あんたとあのお姫様じゃ釣り合わないよ。」
そうお初が言った。