第20章 時を越えて〜分岐〜秀吉ver. ※R18あり
〜秀吉目線③〜
そして、村を出た俺は行く宛もなく彷徨った。喉が渇けば川の水を飲み、腹が減れば野の兎を仕留めて食って…。村の生活で生きるために自然と身に付いたことが役立った。
歩き続けること数日。仲間ができた。
フラフラしていた俺に声を掛けて来たそいつらも、俺と同じような境遇だった。同じ年頃の男女が十数人集まったその群れは、盗みや身売りで収入を得て山の中のおんぼろな空き家で共同生活を送っていた。
仲間になった俺は窃盗や強奪はしたが、身売りは絶対にしなかった。『見た目が良いお前ならたくさん稼げる』と何度も勧められたが断り続けた。『それだけはしたくない』と体が拒否反応を起こしたからだ。きっと『母親と同じにはなりたくない』という強い思いがそうさせたんだろう。身売りをしない代わりに俺は家事を担う。皆の飯を作ったり、着物の綻びを縫ってやったり…。あの忌まわしい生家で身に付いたことが、ここでも役に立った。
それから数年。仲間たちとそれなりに楽しく暮らし、恋仲とまではいかないまでも肌を合わせる女もいて『俺の人生、こんなもんか』と特に幸も不幸もない日々を送っていた俺に運命の出会いが訪れた。
ーーーー
俺はその日、今日の夕餉は魚にしようと湖で釣りをしていた。
チャポンーー
釣り糸を投げ込み、魚が掛かるのを待つがなかなか釣れない。
「場所が悪かったか?」
そう言って釣り場を変えようと立ち上がった俺の目に映り込んで来たのは
「ーーっ!なんだアイツ。」
俺から数歩離れた先で魚を釣り上げている男。男は投げ込む先から魚を釣り上げ、桶は釣り上げた魚でいっぱいになっていた。
「すげーな。」
俺が感嘆の声を漏らしたと同時に男は桶を持ち上げ、釣った魚を全部湖に返し出す。思わず
「ちょっと待て!」
そう声を掛けた俺を
「……」
無言で睨みつけた男。
その男こそ
俺の生涯の主君となる信長様だった。
なぜか自分でも驚くほどに信長様に惹かれた俺は
「俺を家来にしてくれないか?」
信長様が誰かも知らないのに、気付けばそう頼み込んでいた。
「……」
無言で俺を観察していた信長様は
「良かろう。ついて来い。」
そう言って歩き出した。己の行動にも信長様の返事にも驚いた俺は暫し呆然としていたが
「早くしろ」
その信長様の言葉にハッと我に返り、慌てて後を追った。
それから俺はずっと信長様にお仕えしている。