第20章 時を越えて〜分岐〜秀吉ver. ※R18あり
〜秀吉目線〜
奇跡が起きた。
舞を抱きしめながら
(夢じゃないのか)
そう何度も思ったが、伝わって来る舞の体温は本物だ。
この想いが報われる日なんて来ないと諦めていた分、湧き上がる喜びは半端ない。俺の腕の中で固まる舞を一旦離し
「お前から言わせて悪かった。俺と…恋仲になってくれるか?」
俺がそう告げると、瞳いっぱいに涙を浮かべた舞は
「はい」
そう笑顔で答えてくれた。瞬きしたことで頬を流れ落ちた涙は、キラキラしていてとても綺麗だった。
手を繋いで歩く帰り道。
俺は今まで生きて来て初めて幸せだと思った。
歩きながら舞がポツポツと
「想いが届くなんて考えてなかったから夢みたい」
「こんなに人を好きになったことはない」
「誰かと恋仲になるのは初めてだから緊張する」
そんなことを話す。相槌を打ちながら
(かわいいなあ)
俺はそればかり思っていて、相当緩んだ顔をしていたのだろう。偶然居合わせた家康に
「顔が溶けそうになってますよ。」
と呆れたように面白くなさそうに言われた。咄嗟に引き締めようとしても緩んだ表情は城に着くまでなかなか戻らず、家康をさらに呆れさせた。
それからの日々はーー
はっきり言って最高だった。
舞はかわいい。今まで出会ったどんな女とも比べものにならないほどにかわいい。
「秀吉さん」
そう呼ぶ声も、照れたように笑うその顔も、小さく華奢な体も、いつも明るく元気な内面も。舞を司る全てが可愛くて愛しくて仕方なかった。
そんな舞に『恋仲の人がいたことがない』というのはにわかに信じられなかったが、抱きしめた時の固くなる体と、口付けを交わす時の辿々しさで
(ああ、本当なんだな)
そう実感した。『舞の唯一の男は自分』そう思うだけで天にも登るような気持ちだった。
光秀や信長様、周りの奴らは俺たちが恋仲になったと知っても特に何も言わなかった。いや、三成だけは
「お二人はとてもお似合いです。」
と喜んでくれたか。『俺と舞じゃ釣り合わない』その俺の心配は単なる杞憂に過ぎなかったようだった。
光秀からは
「すぐには嫁にやらん。」
そう釘を刺された。舞と恋仲になれたことだけでも奇跡だと言えるのに、夫婦になるなどそんな夢のようなことまで考えてなかった俺は
「今はまだそこまでは考えてない。」
と素直に答える。そんな俺に光秀は複雑な表情で
「…そうか」
短く言った。