第20章 時を越えて〜分岐〜秀吉ver. ※R18あり
それからの日々は、武将たちは政務や毛利討伐へ向けての準備、舞も針子と世話役の仕事で忙しく過ごしていた。
「秀吉さん!」
「舞、どうした?」
「秀吉さん宛の文を届けに来たの。」
「そうか。ありがとな。」
そう言って笑顔で文を受け取る秀吉に
「どういたしまして!」
満面の笑みで答える舞。
「光秀がいなくて困ってることはないか?」
秀吉は心配するが
「大丈夫だよ!ここの生活にもすっかり慣れたし、みんな良くしてくれるから毎日楽しい。」
そう返す舞は幸せそうだ。
「なら良かった。困ったことがあれば言えよ?」
「はーい。じゃあ、私は行くね。」
「ああ、ありがとな。」
そう言って自分に背を向け元気良く去って行く舞の背中を眺めながら
「はー」
秀吉は小さく溜め息を吐く。
安土に戻った舞は、新たな生活にすぐに馴染んだ。光秀の邸の者には大手を振って迎えられ、針子や世話役の仕事もきちんとこなし、その成果は誰からも評価が高い。皆に愛され親しまれる舞は誰の目にも眩しく映る。
秀吉も例外ではなかった。
でも、どんなに想っても舞にとっての自分は『兄』や認めたくはないが、『母親』のような存在でしかない。自分を慕ってくれているのは分かるが、それは恋情ではなく親情。それが分かり過ぎるくらいに分かるが故に、舞の気持ちを裏切るようで自分の気持ちのままに動くことは憚られ、その持て余した気持ちのやり場に困った秀吉は悶々とした日々を送っていた。
そして、秀吉が行動に移せない理由は他にもあった。それは、舞が『明智の血を引く者』だということ。己の大望は『身分のない世を作ること』だが、今の世はまだまだ身分や血筋を重視する。
今は名字を名乗り、家臣を持つ織田軍の重臣になったとはいえ、元々の自分は庶民とも言えぬほど貧しく、生まれも育ちも卑しい。そんな自分と明智の血を引く舞とでは到底釣り合わない。舞や光秀がそれを気にするとは思えないが、それでも、もしかしたら…という思いは拭えなかった。
自分も政宗や家康のような出自であったなら…考えてもしょうがないことを考えてしまう。元々の血筋が良い者と己とでは、見る者が見ればやはり違うのではないか?そう思うと、一歩を踏み出す勇気が出なかった。
『お前と舞とでは釣り合わない』
そう誰かに指摘されるのが怖くて仕方なかった。