第19章 時を越えて〜分岐〜信長ver.後編 ※R18あり
「双子か!こりゃめでたい。」
「早くお会いしたいです!」
出産の報告を聞いた武将たちが口々に言う。
「舞も子も無事で良かった。」
心底ホッとしたように秀吉が言うと、皆が肯いた。
生まれた双子は『吉法師』と『白(しら)』と名付けられた。白姫(しらひめ)とは冬をつかさどる女神のこと。舞のような女子に育って欲しいと信長が名付けた。
生まれたばかりの我が子を見ながら
「夢には続きがあったんですね?」
そう笑顔で言う舞に
「当たり前だ。これから先もこの幸いはずっと終わらん。」
信長はそう言って、『ありがとう』と額に口付けた。
『舞が双子を産んだ』という知らせは、瞬く間に各地へと広まって行く。娘の名が『白姫』と聞いた人々は、『女神が女神を産んだ』と今まで以上に舞を崇めた。そんなことを知る由もない舞は、城の者から拝むように手を合わせられる度に首を傾げた。
乳母や女中が子の世話をするのが定説であるこの時代だが、舞はできる限り自分で乳を与え、世話をした。信長はそんな舞を咎めることはなく、寧ろ積極的に手伝った。そして、率先して世話を焼いてくれる人たちは他にもたくさんいた。安土の武将たちはもちろん、佐助や義元を主とした春日山の面々に、信興と氏直とお市夫婦、そしてなんと三太郎と九兵衛。
特に三太郎は子の扱いが非常に上手く、吉法師はどんなにギャン泣きしていても三太郎が抱くと泣き止んだ。それを見て
「三太郎殿には実は子がいるのでは?」
と皆が噂したことは言うまでもない。逆に白姫は信興が大好きで、信興がいれば常にご機嫌だった。
「信興と三太郎は乳母の方が向いてるわよね?」
クスクスと笑いながらお市が言うと
「本当、お市様の言う通り!お二人とも私なんかよりこの子たちの扱いが上手なんです。」
舞が笑いながら答える。男性陣は苦笑いだ。
「…そう言えば、姉様はいつになったら『市』と呼んでくださるのですか?」
お市が不満そうに言うと
「それは…」
言い淀む舞。
「なんだ」
信長が尋ねると
「お市様を『市』と呼べば…」
「俺は『信興』」
「某のことは『三太郎』とお呼びください。」
「私も『三成くん』ではなく『三成』と呼んでいただきたいです!」
「俺のことも『義元』で構わないよ?」
一斉に主張する彼ら。
「…市」
「はい」
「『お市様』でよかろう?」
「…はい」
お市の望みは果たされそうになかった。