第19章 時を越えて〜分岐〜信長ver.後編 ※R18あり
ーーー
前日からの雪が降り積もり、安土全体が白く覆われた如月のある日。予定日を一月後に控えた舞は、天主で赤子の産着を縫っていた。縫うのが何着目かになる産着は、今までで一番良い出来栄えだ。完成間近のそれを広げ
「良い感じ。」
嬉しそうに言い、少し休憩をしようと茶器を取りに立ち上がったその瞬間
パンッーー
なにかが弾ける感じがし、股の間を温かいものが流れて行く。
「えっ?」
一瞬、何が起こったのか分からなかったが
「もしかして…」
そう思いあたり
「信長様!!」
隣の執務室にいる信長を大声で呼んだ。
「どうした!」
慌ててやって来た信長に
「…生まれるかも…」
震える声で告げる。
「はっ?予定ではまだーー」
そう言いかけた信長の言葉に被せて
「破水したか…産婆を呼んで参ります!」
同じく政務室にいた光秀が慌てて出て行った。
そこからは大騒ぎ。やはり破水していて、産婆が到着する頃には陣痛も始まった。
「ううっ、いたいっ」
そう苦しそうに言う舞の手や腰を必死にさする信長。その側には光秀。武将たちも心配そうにソワソワしている。予定よりずっと早い出産に城中が準備にてんやわんやだった。
陣痛が始まって二刻が過ぎた頃、痛みの間隔が狭まって来た。
「そろそろですね。舞様、産室へ参りましょう。」
産婆がそう言い、信長に抱えられながら産室へと移動する。
「ここからは殿方は入れません!」
そう言ってピシャリと閉じられた襖の前で、呆然と立ち尽くす信長。一緒にいた光秀が
「とりあえず、座りましょう。」
と促し、脇息にもたれて座った。
舞が産室に入ってからの時間は永遠にも感じる。
「あああっ、ううっ」
定期的に聞こえて来る苦しそうな舞の声が耳に届くたびに、拳をぐっと握る。
(無事に生まれてくれ)
信長も光秀もだだそれだけを願い続けた。
そして一刻が過ぎた頃。
「ああっ、ぐぅっ!ああっ!!」
一際大きな叫び声が聞こえた後に
「おぎゃあーー」
赤子の泣き声が聞こえて来た。
「…生まれたか…」
信長がポツリと呟くと
「…生まれましたね」
光秀もそう答える。二人の目には光るものが浮かんでいた。
そしてさらに
「おぎゃっ、おぎゃーー」
もう一度聞こえた赤子の泣き声。
信長と光秀は思わず顔を見合わせる。
「…先ほどとは泣き方が違うような…」
「双子か?!」
そう、舞が産み落としたのは男女の双子だった。