第19章 時を越えて〜分岐〜信長ver.後編 ※R18あり
「兄様?!」
「信長殿?!」
驚く氏直とお市に
「先日、思いがけず織田のものとなった領地がありましてね。とりあえずは私が治めているのですが、信頼のおける方に城ともどもお願いしたいと考えておりました。」
「岐阜城からは離れておるが相模からは近い。そこを貴様に任せたい。」
「そんな…」
「貴様はそこを治めろ。北条領にしても構わぬ。後継ぎがおらぬなら、いずれ織田へ返せば良い。」
「「ーーっ」」
信長と信興の優しさに心打たれた二人。
「なんとお礼を申し上げれば良いか。」
「兄様、信興…ありがとうございます。」
涙を流して礼を言う。
「礼には及ばん。たまたま人手を探していたところに貴様たちがいただけだ。」
そう話す信長に
「しっかり努めさせていただきます。」
氏直は叩頭して答えた。
それを見守っていた舞は
「ううっ…ぐすっ…」
感動のあまり号泣していた。
「なぜ貴様が泣く」
涙を拭ってやりながらそう優しく言う信長に
「…よかっ…よか…た」
舞はそれだけ言うと、信長にしがみついて泣いた。
「舞は姉様のことを本当に心配していたからね。」
それを見ていた信興が言うと
「そうね。舞様は本当の姉上様のようで大好きよ。優しくて温かくて。」
お市も微笑みながら答えた。
ーーーそれから一月後。
中国制定の後処理も落ち着き、山の木々が赤く染まり出す神無月のある日、信長と舞の祝言が挙げられた。天下人『織田信長』の婚儀とあって、それはそれは豪華で盛大な式典には、春日山の武将たちをはじめ、傘下の大名や家臣たちなどが集い、錚々たる顔ぶれの者たちが参列した。
安定期に入り体調も落ち着いた舞だったが、自分の夫となる人物の凄さを改めて目の当たりにし
「光秀さん、本当に私で大丈夫なのかな?」
隣に座る光秀に顔色を悪くして聞く。
「くっ、なにを今さら。」
「だって…こんなにたくさんの人が…」
どんどん顔色の悪くなる舞に
「ここにいる大部分の者はお前を見に来ている。」
「…やっぱり!信長様に見合うかどうか見定めに…」
「そうではない。皆『安土の女神』にあやかりたくて参っているのだ。」
「は?…『安土の女神』って…まだ信じてるんですか?」
「信じるかどうかは見た者が決めることだ。…くっ。その開いた口を早く閉じろ。」
光秀にそう言われ、慌てて口を閉じる舞。
こんな大舞台でも変わらぬ舞のその姿に光秀が笑った。