第19章 時を越えて〜分岐〜信長ver.後編 ※R18あり
「「……」」
「今も兄上と光秀殿に叱られることを察して気分が悪くなったのでしょう。」
「「…」」
「お二人のお怒りはごもっともでしょうが、舞のためを思うなら頭ごなしに叱るのはやめていただきたい。」
「しかし、彼奴はーー」
「舞は姉様や竹蔵たちを助けるために必死だったのです。『皆を守りたい』そのことしか頭になかった。確かに腹に子がいるのに無謀にもほどがある。ですが、その舞の必死な行動がなかったら姉様は連れ去られ、竹蔵たちは命を落としていたかもしれません。舞が皆を救ったのです。」
「「…」」
「俺が元就に謀られたせいで、皆を危ない目に合わせてしまった。責は俺にあります。ですから、叱るなら俺を。いかなる処罰もお受けします。此度の失態、誠に申し訳ございませんでした。」
そう言って、信興は深々と頭を下げた。
「もう良い。」
しばしの沈黙の後、信長がそう言葉を発する。
「舞も市も他の者も無事だった。それで良い。」
頭を下げたままの信興に信長が
「信興、貴様をここで罰したところでなんの益にもならん。咎めはなしだ。」
そう言えば
「ですが!それーー」
信興が顔を上げそれを止めようとする。それを制し
「貴様を罰したと知れば、今度は俺が彼奴から矢を射られるかもしれぬからな。舞にそっぽを向かれて敵わん。それに、腹の子も母親のじゃじゃ馬ぶりにはそろそろ慣れた頃であろう。」
そう言って、信長がニヤリと笑った。
「兄上…」
信興の目に涙が浮かぶ。そして再び頭を深々と下げた。
「くくっ、そう言うことであれば、俺と信長様は『よくやった』と褒めてやるしかなさそうだ。」
光秀の言葉に信長が肯き、三人で笑った。
「舞は…」
ひとしきり笑った後に信興が話し出す。
「舞の矢を射る姿は、凛として美しく神々しかった。真の『強さ』とはこういうことかと。その姿は正に『女神』。その女神を娶る兄上も、女神の父である光秀殿も…女神に携わる全てのものは彼女の『心』に守られている。兄上は本当に良い女子を選ばれた。」
「…そうか」
そう短く答えた信長の表情は感慨深げだった。光秀も穏やかな笑みを浮かべている。
その後
「ごめんなさい。」
と申し訳なさそうに戻って来た舞を
「大事ないか」
そう言って信長が抱き寄せる。光秀も
「あまり無茶はするな。」
そう言って背中を撫でた。
そんな二人に舞はホッとしたように肯き微笑んだ。