第19章 時を越えて〜分岐〜信長ver.後編 ※R18あり
「簡単に死ねると思うな。」
信興はそう言い残し去って行く。
「元就殿は蛇がお好きだそうで?」
口角だけ上げ、目の笑っていない三太郎が言うと元就の顔が一気に青ざめた。蛇は元就の唯一の弱点。幼い頃に子牛を丸呑みする大蛇を目撃して以来、どうしても蛇への恐怖を克服できなかった。
「……」
黙り込む元就に
「土地柄か安土の牢は蛇が良く出るとか。蛇好きの元就殿にはうってつけですな。…では、参りましょうか。」
「ーーーっ(ヒイッーー)」
三太郎が元就と世鬼一族を牢へと連行しようとすると、元就は泡を吹いて気を飛ばしている。
「いやはや、そこまでお好きとは…。案内し甲斐がありますな。」
三太郎はそう言うと、意識のない元就を引きずって連れて行くよう部下に指示し、己は竹蔵の元へと向かった。
竹蔵は二の丸にある客間に運ばれていた。九兵衛の時と同じ部屋だ。本来、竹蔵の居室がある三の丸に運ばれるところだったが、付き添うと言って聞かない舞に折れた信興と秀吉とで考えた策だった。三の丸までは遠い上に、警備も甘くなる。これ以上、舞を危険な目に合わせるわけには行かないと、『恐れ多い』と必死で断る竹蔵を説得して無理矢理運び込んだ。
その竹蔵、クナイが刺さった場所が右胸だったことで命に別状はないが、肺を損傷しており、医師からしばらくは絶対安静との診断が出ていた。家康を呼び戻せれば良いが、さすがにそこまで勝手はできず、町医者に診てもらった。竹蔵は元々、怪我も多い忍びとあって薬草などにも詳しい。心当たりの薬草を調達してもらい、自己対処することで肺を損傷したとは思えないほど傷の治りは早かった。
一方、お市は気を失ったまま家臣に助け出された後、仮住まいの自室に寝かされた。幸い気を失っただけで大した傷も無くすぐに回復したが、自分のせいで皆を危険な目に合わせたと悔やみ落ち込んだ。それが、氏直に会えない寂しさも影響していることが分かっている舞や信興は、自分たちでは救ってはやれないジレンマに心を痛めていた。
今回、大活躍だった舞は……
秀吉と三太郎、九兵衛からしこたま叱られた。秀吉はまだしも、三太郎と九兵衛にまで叱られたことはさすがの舞も堪えた。結果的には皆、無事だったものの、下手をすれば舞自身が標的にされ、身に危険が及んでいたかもしれないことを三人から懇々と説教され、治ったはずのつわりが復活するほどだった。