第19章 時を越えて〜分岐〜信長ver.後編 ※R18あり
「はあはあ。久しぶりに愉しめた。安らかに眠れ。」
毛利輝元との一騎討ちに勝利した謙信が、珍しく息を荒くしながら言う。それでもかすり傷ひとつ負っていないその姿は正しく軍神。
「謙信にしては手こずったな。」
そう言って近付いて来たのは、崩れた敵陣を尽くぶっ潰した信玄。
「ふんっ。手こずってなどおらん。」
そう言いながら、謙信の顔は満足気だ。
「謙信様を満足させるとは、なかなかのお方だったようですね。合掌。」
佐助もやって来て、輝元に手を合わせる。
「ああ。久しぶりに血が沸いた。」
そう答えた謙信に
「それは良かった。信長公に無理矢理お願いした甲斐がありました。約束のマキビシ、忘れないでくださいね。」
謙信は佐助に『信長を説得するのと引き換えに、希少なマキビシを手に入れてやる』と約束していたことを思い出し
「……分かっている。信玄、頼むぞ。」
そう言って、信玄に押し付けてさっさと行ってしまった。
「はあ?謙信!おい、ちょっと待て!」
急な無茶振りに慌てた信玄が、後を追いかけて行く。
「マキビシは諦めませんよ。」
眼鏡をキラリと光らせた佐助が二人の背中に向かって言った。
「おい、バカ元!」
座頭衆に勝利した幸村が義元に食ってかかる。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねえ!お前、戦の最中にどこ行ってたんだよ!おかげで俺一人で四人も相手する羽目になったんだぞ!!」
「そうなの?お疲れさま。鉄扇が汚れたから洗って来たんだよ。」
悪びれもせず言う義元に
「この馬鹿が!戦闘の最中に血を洗いに行く奴がどこにいんだよ!」
「えっ?ここにいるけど。」
「……はー。もーいい。」
話の通じない義元に、幸村は項垂れた。
「この後はどうなさいますか?」
天幕内で信長にそう尋ねる三成。
「一気に安芸を落とし、毛利の領地を奪う。」
「はっ。では、このまま進軍を?」
「ああ」
「御意。伝令を飛ばします。」
信長たちはそのまま安芸まで行軍し、吉田郡山城を討ち落とした。当主である毛利元就との決着はまだだったが、十八将率いる軍が敗れ、城と領地が押さえられてしまってはどうしようもない。これにより、長門までの本州が織田家領地となり、元就は帰る場所を失った。