第19章 時を越えて〜分岐〜信長ver.後編 ※R18あり
ーーー吉田郡山城、本丸。
「くっ、北条も終わりだな。」
届けられた書状に目を通した元就が笑う。
「織田、上杉、武田が播磨へ向かっているとの報告が。」
家臣が言うと
「へえ。安土をやられる前に動き出したか。じゃあ、まあお相手して差し上げるか。俺は世鬼と安土を攻める。兵たちと座頭衆で迎え討て。」
「はっ。しかし、信長、謙信、信玄はこちらへ向かう隊に帯同しております。よろしいので?」
「構わねえ。俺が今、一番興味あるのは安土を火の海にすることと、信長の妹だ。」
「信長の妹でございますか?」
「書状によれば子ができないせいで、旦那に捨てられるらしい。噂に聞く日ノ本一の美女を側に置いて好きにするのも良いと思わねえか?」
「はあ」
「そうだな。大事な妹が俺の性奴隷になったところを信長に見せて楽しむのも悪くない。信長は生きたまま拘束して連れて来い。他の奴らは好きにしろ。」
「御意」
元就の歪んだ思考に呆れる家臣だったが、逆らうわけにも行かずそう返事した。
ーーー小田原城、氏直居室。
「やはり、そういう算段であったか。」
「はい。お市様を安土へ預けておいて正解でございました。」
氏直にそう返したのは、風魔一党当主の新五。風魔一党当主は代々『風魔小太郎』と名乗るため公ではそう呼ばれているが、新五が当主となる前からの付き合いである氏直は、名残りで『新五』と呼んでいた。
「新五、私は市を守りたいのだ。」
「心得ております。お市様も氏直様も、そして北条家をお守りするのが我ら風魔一党の役目。毛利など蹴散らしてやりましょう。」
「そうだね。市が安心して戻って来られるように、全力を尽くすとしよう。」
「ははっ。お市様へのご寵愛は増すばかりですね。」
「当たり前じゃないか。何より大事だ。」
「はいはい」
「新五は相変わらず冷たいなあ。」
「放っておくといつまでも惚気を聞かされますからね。」
そう憎まれ口をたたいた新五は居室を後にした。
お市と氏直は、織田家と北条家の友好関係の証として結ばれたいわゆる政略結婚で夫婦となったが、氏直はお市より一回り以上も歳が上と言うこともあり、お市の相手は最初は氏房だった。それを信長が『氏直を』と強請り、結局、氏直がお市を娶った。すぐに愛し合うようになった二人。妹が誰と夫婦になるのが一番幸せになれるかを見抜いた信長の先見の明には、さすがとしか言いようがなかった。