第19章 時を越えて〜分岐〜信長ver.後編 ※R18あり
ーーー日ノ本、とある場所。
「氏直様がやっと首を縦にお振りになりました。」
顔を綻ばせてそう話すのは、北条家古参の筆頭家臣。
「それは良かった。では、早々に準備にかかろう。」
「時は一刻を争う故、明日にでも輿入れをお願いしたいくらいですが、そう言うわけにも行きませんしな。」
色良い返事をくれた相手にご満悦の家臣がそう言うと
「では、一月後を目安でどうか。」
「そんなに早く!…有難き幸せ。」
「そちらもお市の方の件、頼んだぞ。」
「はは。お市様はすでに城にはおりませぬ。安土から戻ることはないでしょう。」
「なら良い。」
「はは。では私はこれにて。」
そう言って家臣が去った後
「くっ。城を取られるとも知らずに呑気なものだ。阿保な家臣を持つ氏直殿が気の毒なことよ。…元就様へすぐに伝令を送れ。」
「はっ」
元就の思惑通りにことが進み、毛利傘下の大名はホッと胸を撫で下ろした。
「……」
その様子を屋根裏で偵察していた人物。
「阿保はお前もだ。」
そう小さく呟くと闇へと姿を消した。
ーーー数日後。
信長、政宗と三成は『自分たちも加わらせろ』と言って聞かなかった上杉・武田軍とともに播磨国を目指し、行軍していた。
出立前ーー
「氏直殿への援軍は良いのですか?」
留守を任された秀吉がそう尋ねると
「良い。家康だけで十分だ。」
信長はそう答えただけだった。意味が分からないと首を傾げる秀吉に
「秀吉、細かいことは気にするな。毛利相手に暴れる方が断然楽しい。俺は大歓迎だ。」
政宗はそう言ってニヤリと笑う。いまいち納得は行かないが
(御館様にはお考えがおありなのだろう)
と秀吉は頭を切り替えた。
一行は光秀の治める丹羽国で野営をしていた。天幕内で戦略を煮詰めていたところへ
「御館様」
やって来たのは光秀。
「光秀か。首尾は?」
「上々かと。此度は殊の外、信興様が張り切っておられます故…」
「くくっ。そうだったな。」
最後を濁した光秀の言葉を聞いて、信長がおかしそうに笑う。
その様子を見た謙信が
「なにを企んでいる」
そう聞けば
「ご心配なさらずとも、謙信殿が刀を振るう場は存分に残してある。」
光秀がニヤリと笑って答える。それを聞いた謙信は
「ならば良い」
と満足そうに引き下がった。
「さすが光秀さん。謙信様の扱い方を心得ていらっしゃる。」
その様子を見ていた佐助が感心して呟いた。