第18章 時を越えて〜分岐〜信長ver.中編 ※R18、R20あり
なかなか機嫌の直らない舞を必死で宥める信長を残し、お市たちは部屋を後にした。三人が向かった先は広間。そこには、信興と他の武将たちも揃っていた。
「姉様、来て早々に大暴れされたとか。」
と信興が愉快そうに言うと
「大暴れなんてしてません。それよりも早く本題に入りましょう。」
そうお市が言う。
「信長様を待たれないのですか?」
三成が聞けば
「いいの、いいの。兄様は時間かかるだろうから。」
自分のせいだということは棚に上げてお市が答える。
「良いのでしょうか?」
三成が言うと
「大丈夫。私に任せておいて。」
と妙に自信満々で言うお市に不安を抱きながらも本題に入った。
家康「それで?」
お市「兄様が隠密に動き、織田が北条を陥れようとしているという噂を毛利が家臣たちに流してるわ。北条に毛利の間諜が入り込んでるようね。」
家康「氏直殿は?」
お市「氏直様は信じてはいないわ。でも、古参の家臣たちの中には噂に踊らされてる者もいる。そのおかげで北条は今、大きく揺れているの。このままでは、御家騒動が勃発してしまう。」
光秀「北条は氏直殿がきっちり統率を取っているはずでは?」
お市「今まではそうだったわ。でも、今回の噂が流れた時に、氏直様に『側室を』と古参の家臣たちが言い出したの。」
秀吉「氏直殿の妻が信長様の妹君であるお市様だけでは、問題があると?」
お市「織田家が北条を裏切っていたとしたら当然、私は処罰されるわ。そうなると氏直様の妻が一人もいなくなる。それに、私たちの間にはまだ子もいないから…。」
信興「要はこれを機に、側室を設けて跡取りを成せと?」
お市「…私と氏直様が夫婦になって三年。なかなか子ができないことに、不満を持つ家臣たちが噂に触発されたのでしょうね。氏直様が『側室は持たない』と跳ね除けたことで、『お世継ぎが生まれる可能性の無い氏直様より、息子のいる氏房様を当主に』と推す声が強くなったの。」
三成「それで、氏房殿はなんと仰っているのですか?」
お市「分からないわ。氏直様と氏房様でお話をされたようだけど、内容はお二人だけしかご存知ない。」
三成「そうですか…。」
光秀「北条と織田の関係を破綻させるのが毛利の本来の目的だったのでしょう。それに思いがけず、御家騒動までついて来て『棚からぼた餅』と言った具合か。」
家康「でしょうね。…余計なことを。」