第4章 時を越えて〜呼び名〜
「舞。俺のことも『信長』と呼べ。」
ニヤニヤ笑いながら言う信長様。
(これ、絶対にからかって遊んでるよね。)
「なっーーー」
言い返そうとした私より先に口を開いたのは明智光秀。
「信長様を呼び捨てなら、俺とお前も『光秀』『秀吉』と呼んでもらわないとなぁ?秀吉?」
明らかに信長様のからかいに便乗している。
「バカ言うな!信長様を呼び捨てで呼ぶなど許されるか!」
激怒した豊臣秀吉はすごい目で私を睨んで、刀に手を掛けている。
「なんなのこれ…巻き込まれ事故?」
私がポソリと呟くと「ぷっ」っと吹き出したのは家康。
「ちょっと、家康!笑ってないで助けてよー。」
涙目で訴えると今度はお腹を抱えて笑い出す家康。
それを見ていたらなんだかおかしくなって、私も笑ってしまった。
「信長様を呼び捨てにすることはできません。秀吉さんに今度こそ斬られます。私は命が惜しいですから。」
笑いながら答えると
「呼び捨てにせぬと俺が貴様を、斬るぞ。」
ニヤリと笑う信長様に
「信長様はそんなことで斬ったりしないから大丈夫です。だいたい、斬られるならもうとっくに斬られてるでしょう?今さらです。」
ふふんっと勝ち誇ったように答えた。
「秀吉さんは本気だから信長様より怖いです。」
と付け加えると、不満顔の秀吉さん以外は大笑いしていた。
結局、信長様は『信長様』、豊臣秀吉と明智光秀はそれぞれ『秀吉さん』、『光秀さん』と呼ぶことで落ち着いた。さらに、「信長様より怖い」と言われショックを受けた秀吉さんがなかなか立ち直らないので、秀吉さんに対しても敬語を外すことでなんとか気を取り直してもらった。
「はぁー。たかが呼び方ひとつでここまで騒動になるなんて…。」
(戦国武将って案外ガキっぽい?)
そう思うとなんだかおかしくて吹き出した私を見て、横に座る家康がまた大笑いした。