第4章 時を越えて〜呼び名〜
夕餉作りを終えた政宗と私は再び広間へと戻る。
「もう終わったのか?」
と豊臣秀吉が尋ねれば
「ああ、舞の料理の腕はなかなかのものだ。おかげで予定よりずいぶん早く終わった。なっ?」
政宗が同意を求めるので、
「そんな。大したことないよ。作ったのはほぼ政宗だし、私はちょっとお手伝いしただけ。」
と答えれば、
「…政宗?あんたいつから政宗さんを呼び捨てにするようになったの?」
瞬時に突っ込む徳川家康。
「失礼だと思ったんですけど、敬語をやめて『政宗』って呼ばないと厨から追い出すって言われたので…やむを得ず…」
「ふーん。じゃあ、俺のことも『家康』で敬語もナシね。」
と圧力たっぷりで言われれば断れるはずもなく…
「分かった。いっ、家康。」
そう答えた。
「なんだ家康。嫉妬か?」
からかう政宗に
「違います。『徳川家康さん』って呼ばれるのは長ったらしくて鬱陶しいし、政宗さんを呼び捨てなのに俺に『さん』付けはおかしいですから。敬語も同じ理由です。」
めんどくさそうに答える家康に
「ふーん。」
政宗はそう一言だけ返した。
「舞様、では私のことも『三成』とお呼びください。」
エンジェルスマイルで言う石田三成。
(うーん。この人は『三成』じゃなく『三成くん』がしっくり来るんだけどなぁ。)
返事をせずに考え込む私を
「舞様?」
エンジェルスマイルで覗き込む石田三成。
「えっ?ちょ、ちょっと近いから!」
慌てて離れて距離を開ける。
「えーと、『三成くん』でも良いかな?」
「なぜですか?」
「なぜと言われても困るけど、『三成くん』がしっくり来るから…」
「なぜでしょう?私も『三成』と呼んでいただきたいです。」
菫色の瞳にウルウルと見つめられて絆されそうになるけど、でもなんかやっぱり『三成』には違和感。
「三成くんが『様』付けをやめて『舞』って呼ぶなら、私も『三成』にするよ?」
と答えれば
「…舞様を呼び捨てになどできません。分かりました。私のことは『三成くん』と…」
悲しそうに言われて少し心が痛んだけど、
「分かった。『三成くん』ね。」
と笑顔で答えた。
そのやり取りを苦笑いでみんなが見ていたことには二人は気付かず…。