第17章 時を越えて〜分岐〜信長ver.前編 ※R18あり
宴が始まる時間だというのに、信長が戻らないことに秀吉は焦っていた。
「このままお戻りにならなかったら…」
動揺する秀吉に
「もしもの時は、腹括って秀吉さんが頑張るしかないですよ。」
家康が冷静に言う。
「そうは言っても、光秀もいないのに…」
秀吉の眉はどんどん下がって行く。
「秀吉様なら大丈夫です。家康様も私も精一杯お手伝いいたします。どうぞご安心ください。」
三成がエンジェルスマイルを炸裂させて励ますと、
「三成…家康…。そうだな!今さら怖気付いてもしょうがない。腹括るか!」
途端にやる気になる秀吉。
「…単純」
家康の呟きは、秀吉の耳には届かなかった。
案の定、宴の席に信長がいないことに不快感を露わにする大名。
「信長様は光秀と急な案件でお出掛けになった。終わり次第、戻られる故、ご勘弁いただきたい。」
秀吉がそう言って頭を下げると
「信長様自らお出ましとは…。よほど大事な案件なのでしょうな。」
大名が嫌味を言う。
「織田軍の先行きを左右するほどの案件でございます。」
三成がしらっと言うと、
「なんと!それは大事ではございませぬか。我のことはお気になさらず、解決にご尽力いただきたい。」
単純な大名は、機嫌を直すどころか心配し出した。
「信長様と光秀が出向けば、必ず解決いたす。大名の心遣いに感謝申し上げる。」
とりあえず、急場は凌いだとホッとしながら、秀吉が返した。
一方、信長は林の中を馬で駆けていた。己の直感が『こっちだ』と言っていたからだ。木陰などを見落とさないように、ペースを落としてしばらく進むと
「光秀!」
光秀が道端にしゃがみ込んでいた。その腕の中には
「舞!!」
舞がいた。信長の声に反応した光秀が振り返る。
「…泣いているのか…」
光秀は涙を流していた。途端に信長の背中に冷たいものが流れる。
「…舞は…」
そう信長が問うと
「……この…暑さの中を…こんなところまで…」
何かを堪えるように、途切れ途切れに話す光秀。
「…この体で…こんなに…なるまで…」
「……」
初めて見る光秀の姿に信長は言葉を失くす。
そして
「…連れて帰ります。」
そう言って舞を横抱きし、馬に乗ろうとする光秀に
「待て!なにがあった」
と問うが
「…ご自分の胸にお聞きになられるといい」
そう冷たく言い放ち、光秀は馬に乗って去って行った。
信長は、しばらくその場から動けなかった。