第17章 時を越えて〜分岐〜信長ver.前編 ※R18あり
「夜には宴がある。全員が出るのは無理だ。」
そう秀吉が言うと
「俺は一度、邸へ戻る。後は頼む。」
と光秀は疾風のごとくいなくなった。
「俺と政宗さんで行きます。」
家康がそう言うと、
「政宗には厨で取り仕切ってもらわないといけないからダメだ。家康と三成で行ってくれ。」
「分かりました。」
「かしこまりました。」
二人がそう返事をすると
「二人とも宴には一度戻ってくれ。」
秀吉が指示を出す。二人は肯くと走って出て行った。
その様子を黙って見ていた信長。
「舞は…帰るのか?」
ポツリと呟く。
「なにかおっしゃいましたか?」
秀吉が尋ねると
「いや…」
そう短く返し、また黙り込んだ。
信長は、舞が己の前から消えると思うだけで、体の隅々までが冷えて凍りつくようだった。でも、それを止める権利は己にはないと思うとなにもできない。先ほど見た美しく着飾った姿が最後かと思うとーー
ガタッーー
「信長様?!」
秀吉が驚いて呼ぶが、構ってなどいられなかった。
「ふざけるな。最後になどさせぬ。」
そう口にして、信長は広間を出て行った。
ーーーその頃。
舞は安土の城下を抜け、林の中を歩いていた。春日山から戻る時に通った道を進む。春日山に向けて歩いていれば、途中で佐助に会えるのではないかと思ったからだ。つわりのある体では休み休みしか進めなかったが、少しでも遠く安土から離れようと必死で歩いた。
水分も取らず、夏の炎天下を長時間歩き続けるのは普通の人間でも辛い。ましてや妊婦の舞にそんな無理が効くはずもなく、ついに暑気中りを起こし意識を失くした。
御殿へ戻った光秀は
「舞はいるか?!」
と家臣に問う。
「先ほど、忘れ物をしたと戻られてすぐに城へ行かれました。」
そう聞くや否や、舞の部屋へと走って行く。部屋に入り、見回すが
「特に変わっーーーっ!」
言いかけて、文机の上に置かれたものに気付く。『ありがとう』そう一言だけ書かれた文は、きっと自分宛のものだろう。思わず握り締め
「舞!!」
名を叫ぶ。
そのまま、馬屋へ行くと馬に跨り駆け出した。
家康と三成は二手に分かれて捜索していた。家康は森の中を、三成は京へ続く道を必死に探すが見付からない。
「どこに行ったんだよ…」
家康の顔に焦りが浮かぶ。
「舞様!」
三成は名を叫びながら走る。
宴のギリギリまで探したが、二人は断念して城へと戻った。