第17章 時を越えて〜分岐〜信長ver.前編 ※R18あり
春日山から安土に戻ると、舞は光秀の御殿に居を移した。
実は、光秀の御殿に移って直ぐの頃から、つわりの症状が出始めていた。妊娠周期の数え方など良く分からないが、たぶん今は三ヶ月くらい。つわりの症状が出始めてもおかしくない頃だ。舞はそう判断し、
(やっぱり帰らなきゃ)
そう決めた。
タイムホールが出現するまでは残り三週間ほど。つわりの症状が出ている状態でいつまで周りをごまかせるのか?
舞は悩みに悩んでいた。
(とりあえず、帰ることを光秀さんだけには言わなくちゃ)
そう考え、光秀の部屋を訪ねる。
「光秀さん、いらっしゃいますか?」
部屋の外から声を掛ければ、すぐに襖が開いた。
「どうした?」
「お話したいことがあって…」
憂い顔で言う舞に、光秀は
(ああ、決めたのだな)
そう悟るが、気付かないフリをして
「入れ」
と舞を部屋へ招き入れた。
向かい合って座り、
「話とはなんだ」
光秀から切り出す。
「……帰ることに決めました。」
「…そうか」
「色々お世話になっておきながら、勝手を言ってすみません。」
申し訳なさそうに詫びる舞に
「お前の決めたことならしょうがない。ただ…」
「ただ?」
光秀の口からは、言わないつもりの言葉が無意識に出ていた。誤魔化すこともできる。でも、なぜか誤魔化したくはなかった。
「腹の子のことは良いのか?」
「ーーーっ!なんで…」
光秀の言葉に驚いた舞が目を見開く。
「お前と信長様が一晩過ごした翌朝に、天主から出て来るお前をたまたま見かけた。その時はお前が明智の人間だとは知らなかったから、見て見ぬフリをしてやり過ごした。だか、今は違う。一時であっても、お前は俺の家族だ。このまま見守るだけにしようかとも思ったが、知らぬ顔はできなかった。すまんな。」
「……光秀さん…」
「信長様に話すつもりはないのか?」
「…はい」
「なぜだ?」
「信長様が私と寝たのは、単なる戯れです。それなのに、子ができたなんて言われたって困るでしょう?」
泣き出しそうな顔で言う舞に光秀の胸が痛む。
「…お前は…信長様を想っているのか?」
「……はい…」
「そうか…」
「お願いです。子のことも、私の想いも、誰にも言わないで。」
ついに泣き出した舞に懇願されれば嫌とは言えない。
「…分かった。…子は産むのか?」
「…はい。向こうで」
光秀はもう何も言えなかった。