第16章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.後編 ※R18あり
ーーー三ヶ月後。光秀御殿、客間。
「………」
黙り込み、極寒の冷気を漂わせる光秀に、舞も幸村も震え上がる。
「……幸村」
「はっ、はい。」
やっと口を開いた光秀に名を呼ばれ、思わず吃る幸村。
「もう一度聞いてやろう。なんと言った?」
「……子が…子ができました。」
「ほお。よほど城を燃やして欲しいみたいだな。」
「いっ、いえ。そんなことは…」
「祝言の許可も与えていないのに、子を成すとは…大した度胸だ。」
「うっ、それは…」
「仕置きは何が良い?」
「……」
「二度と子など作れぬよう、男根をちょん切るか?」
「ええ?!そっそれは…」
光秀の言葉に青ざめる幸村。
「……くっくくっ」
「えっ?」
「真田幸村でも『父』は怖いか?」
「……」
「腹立たしくはあるが、娘が望むなら仕方あるまい。祝言の準備を早急に進めろ。」
「光秀…」
「光秀さん…」
「「ありがとうございます。」」
「娘になって早々に嫁に出すことになるとはな。」
「うっ。ごめんなさい。」
「幸村」
「はい」
「舞を…娘を泣かすようなことがあれば、本当に城が燃えると思え。」
「己の命に掛けて幸せにします。」
「ああ。頼んだぞ。」
「はい」
幸村の予言?通り、二人の間に宿った命は、五ヶ月目に入るところだった。元々、不順気味だった舞は月のものの遅れに無頓着だったことと、初期のつわり症状がほぼなかったことで、妊娠に全く気付いていなかった。貧血を起こし倒れた舞を診察した家康からは
「間違いなく懐妊してる。…ここまで気付かないとか、あんたって本当に…」
と心底呆れられた。
それでも
「おめでと。大事にしなよ。」
と言ってくれた家康に、
「ありがとう」
と舞は涙を流してお礼を言った。
そうして、大急ぎで祝言の準備を進め、半月後には二人は夫婦となった。上田城で新婚生活を送る二人の元へは、安土からも春日山や甲斐からもほど近い場所ということもあり、代わる代わる武将たちが訪ねて来る。忍びたちも暇をみては顔を出してくれていた。
幸村は上田城に光秀専用の部屋を作ってくれた。父と娘としての時間を早々に奪ってしまった罪滅ぼしもあったが、方々へ出回ることの多い光秀の拠点が増えることで、少しでも体への負担を減らせたらと考えたのだった。これには、舞だけでなく、光秀本人もとても喜んだ。幸村を含めた三人で過ごす家族の時間は幸せそのものだった。