第16章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.後編 ※R18あり
ーーー翌朝。
武田軍の出立を見送る舞と幸村。
「舞、今度は躑躅ヶ崎館へ遊びに来てくれ。甲斐の国も案内するよ。」
「はい!ぜひ。」
「幸、舞を頼んだぞ。」
「はい」
「では、また会おう。」
「道中お気を付けて!」
見えなくなるまで手を振っていた舞が
「行っちゃったね。」
ポツリと言うと
「寂しいか?」
と幸村が問う。
「うん。信玄様は私の『お兄さん』だから。」
「はぁ?」
舞の返答に『意味が分からない』という顔をする幸村。
「昨日、二人でお散歩した時に信玄様は私の『お兄さん』になってくれたの。」
「…そっか。良く分かんねえけど、良かったな。」
「ぷっ、なにその変な日本語。」
「そのまんまだろ。」
「えー?」
そんな会話をしながら城内へと戻る二人。
「幸村」
「ん?」
「今日もお仕事忙しいの?」
舞がそう聞いたのには訳があった。
昨日、上田城に到着してからの幸村は、溜まっていた政務の処理でずっと忙しくしていて、夕餉を一緒に摂ることはおろか、『おやすみ』の挨拶さえできなかった。幸村のあまりの忙しさに『自分を安土に送るために無理しているのでは?』と心配になった舞は、幸村の同行を断って、安土の誰かに迎えをお願いしようかと考えていた。
本音を言えば、少しでも長く幸村と一緒にいたい。でも、そんな自分のわがままで幸村に負担を掛けるわけにはいかない。舞の胸中は複雑だったが、最終的には『幸村に無理をさせたくない』という思いが勝った。
「あー。もう終わった。」
「本当?」
「おー。」
「無理しなくていいんだよ?私なら安土の誰かにーー」
「無理なんかしてねえ。」
舞の言葉を遮って、幸村が言い切る。
「…でも…」
「『でも』じゃねえ!無理してないって俺が言ってんだから、素直に聞け!」
いつまでも気にする舞に、幸村のイライラが増して行く。
「なんでお前はいつもそうやってーー」
さらに言葉を発しようとして我に返る。
「…強く言い過ぎた。悪かった。」
バツが悪そうに謝る幸村に、舞は申し訳なさが募る。
「私こそ、いつもごめんね。幸村を怒らせて我慢させてばかりだね。」
「……」
「幸村のお言葉に甘えて安土までお願いするね。忙しいのにありがとう。」
そう言って舞は悲しそうに笑うと
「先に行ってるね。」
と足早にその場を離れようとする。その手を掴み、
「ちょっと来い。」
幸村は歩き出した。