第16章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.後編 ※R18あり
「織田軍のみんなも、春日山のみなさんも、忍びの方々も本当に優しくて私に良くしてくださいます。みんな大好き。私の境遇も過去も黙って受け入れてくれて、たくさん感謝しています。…だからかな。『せめて心配かけないように』って、自分でも気付かないうちに頑張ってるところがあって、幸村はそれに気付いてくれるんです。『無理するな。溜め込むな。』って言ってくれる。そういうところかな?」
「……」
「いつか聞いたことがあります。『恋はするものじゃなく、落ちるもの』。好きになろうとした訳じゃなくて、気付いたら好きだったんです。なにが?とかどこが?って聞かれても簡単には答えられないけど、幸村の全部が好きだなぁって思います。『この人とずっと一緒にいたいな』って思うんです。もし、幸村のお嫁さんになれなかったとしても、一緒に笑い合える時間がこれから先もあるなら、それだけですごく幸せだって思います。
私が安土に帰れば離れ離れになる。会えない間に幸村の気持ちまで離れたらどうしよう?って本当はすごく不安です。離れてまで好きでいてもらえる自信なんて、これっぽっちもない。でも、だからって今のままの私じゃ幸村の側にいても何の役にも立てない。安土で色んなことを学んで、幸村の隣にいても恥ずかしくない自分にならなきゃって思います。」
「…そうか。君はやっぱり強いな。」
「強くなんかないです。強くないから迷惑かけてばかり…」
「誰かのために頑張れる人間は強い。君はいつも自分のことよりも相手を優先させる。それが君の強さだ。」
「……」
「舞」
「はい。」
「幸の前では弱くても良いんじゃないか?君の不安をぶつけて良いと思う。幸も君と同じように強い。少しくらい寄り掛かったって倒れやしない。だから、遠慮なんてせずに君の気持ちをぶつけたら良い。」
「…信玄様…」
「おじさんはね、君たちより少しだけ長く生きて来た分、分かることも多いんだ。だから、素直に言うことを聞いて幸村に今の気持ちを話して欲しい。」
「…はい。怖いけど…頑張ってみます。」
「いい子だね。」
「ふふっ。信玄様、お父さんみたい。」
「えっ?『お父さん』は悲しいなあ。せめて『お兄さん』にしてくれないか?」
「クスクス。はい。じゃあ、『信玄お兄さん』色々ありがとうございます。」
「ははっ。これは参ったな!」
「アハハハハッーー」
兄と妹の楽しげな笑い声が響いていた。