第16章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.後編 ※R18あり
一行は順調に上田城へと進んでいた。舞は自分では馬に乗らず、信玄の馬に同乗している。春日山を出る時に、自分の馬に乗せようとした幸村に
「信玄様の馬に乗って良い?」
と舞が聞いた。一瞬ムッとした幸村だったが、たった数刻のことだと己を納得させ
「おー。無理はすんなよ。」
と返事する。幸村の言葉に笑顔で肯いた舞が、信玄のところへ駆けて行くと
「信玄様の馬に乗っても良いですか?」
と聞いた。
「おお。もちろんだよ姫。天女を乗せられるなんて、馬に蹴られちゃうかもなあ。」
信玄はそう冗談を言いながら、舞を抱え上げ、自分の馬に乗せる。
パカッ、パカッーー
穏やかに進む道中で、楽しそうに会話する舞と信玄。その内容は
「信玄様と幸村はいつからのお付き合いなんですか?」
「小さい頃の幸村ってーー」
幸村に関することばかり。明かして欲しくない恥ずかしい過去の話もあったし、一緒に馬に揺られる二人を見るのは面白くなかったが、舞が己のことを知りたくて信玄の馬に乗ったことを理解した幸村は、何も言わず、側で二人の話に耳を傾けていた。
無事、上田城へ到着し、家臣に出迎えられる。
「幸村様、おかえりなさいませ。」
「信玄様、舞様、ようこそお越しくださいました。」
口々に言う家臣たちに
「おー。ただいま。」
「皆、久しぶりだな。今日は世話になる。」
「またお世話になります。」
それぞれ返し、城内へと進む。武田軍も今日は一緒に上田城に泊まり、明日別れることになっていた。
部屋に案内され、湯浴みを済ませ、ゆっくりしていた舞のところへ信玄がやって来た。
「散歩でもしないか?」
そう誘われ、
「はい!」
二つ返事で答えた舞は、信玄と庭を歩く。
「幸村の手も大きいけど、信玄様も大きいですね。大きくて温かくて幸村と信玄様の手は似ています。」
繋いだ手を見ながら言う舞に信玄が笑う。
「ははっ、そうか?」
「はい。とっても安心します。」
「舞」
「はい?」
「どうして幸村を選んだんだ?」
「え?」
「大きくて温かい手が好きなら俺がいる。優しい男が好きなら義元。一緒にいて楽しい相手が良いなら、佐助や家康。強い男が好きなら…それこそたくさんいるだろう?」
「…分かりません。『なんで』と聞かれても分からないけど、幸村はいつも私らしく居させてくれようとするから…ありのままの私を受け止めてくれるからかもしれません。」