第16章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.後編 ※R18あり
昨日の昼間、舞は幸村と佐助と城下町へ繰り出した。
「ん」
と差し出された幸村の手を取った舞に
「そっちは佐助だろ?」
幸村が言う。
「…いいの?」
記憶を失くす前に幸村から言われた言葉を思い出した舞が不安そうに聞く。
「いいんだ。あの時は悪かった。これから先も繋ぎたいヤツと手を繋いでいい。」
その幸村の言葉に安心した舞は
「うん!じゃあ、佐助くんはこっち!」
と嬉しそうに反対の手で佐助の手を取る。そんな二人のやり取りを見ていた佐助が
「じゃあ、これからは幸村に遠慮せず、どんどん舞さんと手を繋ぐことにするよ。」
とすました顔で言うと、幸村は一瞬ムッとした表情を浮かべ、
「おー。でも、舞から頼まれた時だけだからな。」
と強がって答えた。
それを見た佐助は
(舞さんのために頑張ってるんだね。)
親友の成長を密かに喜んだ。
三人で楽しい時間を過ごし城へ戻ると、以前と同じようにお土産の団子を配って回る舞。皆は喜び、その姿に和むとともに、明日からの寂しさを思い涙する者もいた。
夕方からは毛利戦勝と舞と幸村の快気祝い、そして舞のお別れ会が合同で開かれた。城中の者が参加して、飲めや歌えの大騒ぎの中、舞もミニピアノを持ち出して歌う。その音色と歌声を肴に、謙信たちは美味い酒を飲んだ。
『先に休む』と言う舞を部屋に送った幸村が戻ると
「幸」
と信玄に上座へ呼ばれる。
信玄「このまま帰していいのか?」
幸村「……」
信玄「安土へ帰せば、離れて暮らすことになるんだぞ?」
幸村「…分かってます。」
謙信「ならばーー」
幸村「アイツにとって大事なものは、俺も大事にしてやりたい。そのせいで離れて暮らすことになっても、アイツが笑ってられるならそれでいい。」
謙信「……」
幸村「悔しいけど、今の舞が一番大事なのは『光秀』と『安土』。いつかその一番大事なものに俺も入れたら、その時は嫁に来てもらいたいと思ってます。」
信玄「幸…」
謙信「織田との和睦が反故になったらどうする?」
幸村「…俺は舞と同じくらい信玄様も大事です。だから、どっちも諦めなくていいように必死でなんとかする!!」
そう答える幸村は凛としてたくましく、何より舞への愛が溢れていた。信玄と謙信の顔に笑みが浮かぶ。
我が子のように思う幸村の成長を心から嬉しく思った信玄が
「そんな心配は無用だ。」
と言うと、幸村は笑顔で肯いた。