第15章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.中編
安芸での任務を終え、朝倉平定のため、越前へと向かう明智軍と饗談一行。
そこへ
「ーー!伝令!明智光秀様へ春日山から!伝令!」
と早馬が駆けて来た。
「春日山から?」
途端に険しい顔になる光秀。受け取った文を読み、驚愕の表情を浮かべた。
「舞様になにか?」
三太郎が尋ねると、文を寄越す。
目を通した三太郎が
「光秀様はすぐに春日山へ。後のことは某にお任せを。」
と言うと
「恩に着る。」
そう言って、光秀は猛スピードで駆けて行った。
その様子に呆気に取られた九兵衛が
「三太郎様…なにが…」
と問えば
「娘の一大事とあっては、駆けつけぬ訳には行きますまい。」
と答える。
「「「は?娘?!」」」
九兵衛のみならず、経緯を全く知らされていない明智家の家臣たちは、皆ポカーンと口を開けている。
「光秀様には『舞様』という御息女がいらっしゃる。某から言えるのは、それだけです。さあ、越前へ急ぎますぞ。」
そう言って馬を駆け出した三太郎に、呆けていた家臣たちも慌てて付いて行った。
一方、越後の港。
毛利軍と村上水軍の船が水平線の向こうから現れた。
「来たな」
そう言ってニヤリと笑う謙信の元へ
「俺も出ます。」
「佐助?!」
佐助がやって来た。
「お前がどうしてここに…」
驚く謙信に
「謙信様。俺は今まで生きて来て、こんなに怒りが湧いたことはありません。」
そう答える佐助。
「佐助、わーー」
作戦を明かさなかったことをそこまで怒っていたのかと、謙信が詫びを入れようとしたその時
「俺は毛利だけは絶対に許さない!!」
謙信の言葉に被せて、佐助が叫んだ。
その様子に、ただ事ではないと
「…なにがあった」
そう聞けば、経緯を説明する佐助。
謙信の顔色がみるみる変わる。側で話を聞いていた信玄、義元も、近寄れないほどの怒気を放出していた。
そのやり取りを間近で見ていた竜。
(佐助様の逆鱗に触れたとあっては、毛利は終わりだな。一番怒らせてはならないのは、あのお方だ。)
心の中で呟いた。
怒り狂う春日山の面々は気付いていないが、毛利、村上の船のずっと後ろに九鬼水軍の船も姿を見せていた。