
第15章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.中編

幸村が女中の元へ向かったその一瞬の隙、
ーーーヒュン
「キャンッ」
鋭い音と村正の啼き声。舞は何が起こったのか分からなかった。
「村正?」
見れば村正の体に矢が突き刺さっている。
「ーーっ!!村正!!」
慌てて村正に近寄ろうとする舞の目の前に、黒い装束の男が立っていた。
「だっ、誰?」
嫌な予感を感じながら震える声で口にする。
「先日はこの犬に邪魔されたが、今回は邪魔は居ぬ。今度こそ一緒に来てもらうぞ。」
頭の中で鳴り響く警告音。
(逃げなきゃ!)
咄嗟に動こうとするが、負傷した体は思うように動いてくれない。男に腕を掴まれそうになったその時ーー
「なにやってんだ!!!」
ものすごい怒声とともに幸村が戻って来た。
「邪魔が入ったか。でも、今回はもう失敗は許されない。」
そう言って、男が刀を抜き幸村に斬りかかった。瞬時に抜刀し、応戦する幸村。
「舞!下がってろ!!」
そう言うと、男とともに庭へと降りて行く。
「…幸村…ゆきむら…」
恐怖にガタガタ震え、力の入らない体で村正に近付く。
「ーーーっ、むらまさ…」
触れた村正の体はピクリとも動かず、息をしていない。
「…む…らま…さ………あああーっ」
村正の死を感じた瞬間に激しい頭痛が襲って来る。
そして、堰を切ったように脳に流れ込むたくさんの記憶。
「ああああーーうあああーっ」
舞はものすごい叫び声を上げた。
「舞!」
幸村が舞に気を取られた一瞬、相手の刀が幸村の脇腹を掠める。
「うっ」
呻き声を上げ、跪いた幸村に気付いた舞は
「…幸村まで…許さない。絶対に許さない!!」
そう言って、近くに立てかけてあった護身用の木刀を持ち、相手に襲いかかった。
「舞!!やめろ!!!」
幸村が叫ぶが、敵しか見えていない舞には幸村の声は届かない。傷だらけの体で、しかも真剣に木刀で挑むなど正気の沙汰ではない。なんとか止めようとしても、既に舞は敵と刀を交えている。
「誰か!誰か来てくれ!!!」
声の限りに叫ぶ幸村。その側では
カンッーーシュッー
と木刀と真剣がぶつかる音がする。
「やめろ!やめろーーっ!!」
再び幸村が叫ぶ。敵と凄まじい打ち合いを続ける舞の姿に気が狂いそうだった。
「くっそー!」
そう言うと幸村は力の全てで立ち上がり、刀を構える。
そしてーー
幸村が振り下ろした刀が敵の背中から心の臓を深く突き刺した。
