
第15章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.中編

そうして始まった二人の手習い。幸村は『あいうえお』が書かれた本を持って来て、舞にひとつずつ教える。平仮名自体は理解している舞は、あっという間にそれを覚えてしまった。
「すげーな。もう分かるようになったのか?」
「うん。簡単だし、幸村の教え方が上手いから。」
「おー。」
褒められて幸村の顔が赤くなる。
「本当は書く方も覚えたいけど…」
「それはまだだ。家康の許可なしにそんなことしたら、俺までにげー薬飲まされる。」
心底嫌そうに幸村が言うので、
「ふふっ、あれは本当に苦いもんね。思い出しただけで、口の中が苦い。」
と舞も顔をしかめる。
「おー。だから、書くのはもうしばらく我慢な。」
「うん。」
「家康の許可が出たら、また教えてやる。」
「うん!ありがとう。」
その後は佐助の差し入れを二人で読み、穏やかな時間を過ごした。
ーーー同時刻。春日山城、佐助の居室。
佐助「なんだって?!」
竜「村上水軍と毛利は最初から結託して、織田軍を貶めるつもりだったようです。」
佐助「…このままじゃ謙信様たちも危ない。軒猿を城内の護衛と謙信様たちのところへ向かう者と2つに分けよう。俺は城に残るから、竜と弥助は謙信様のところへ。後の者は竜が采配して。」
竜「御意」
佐助「急ぎ、織田軍へ早馬を飛ばす。」
竜「佐助様。」
佐助「うん?」
竜「甲賀者へ協力を依頼しては?」
佐助「…寛治さんか」
竜「はい。共闘は難しくとも、軒猿、三ツ者、甲賀者で配置を分ければ問題ないかと。」
佐助「…そうだね。城を守るにはそれが一番良い。家康公にも文を出すよ。」
竜「はい。では、すぐに立ちます。」
佐助「頼んだよ。」
竜「御意」
織田軍と組んで毛利攻めを行うはずだった村上水軍は、最初から毛利と結託していた。当然、こちらの作戦は毛利に筒抜けで、毛利軍の越後上陸は時間の問題となっていた。手薄のはずの安芸の港や毛利の城も警備が強化されて、光秀たちと響談を待ち構えている。危機の迫る事態に気付いているのは、まだ佐助たちだけという最悪な状況だった。
「織田も上杉も武田も大したことないな。まあでも、安土と春日山にデカい花火を打ち上げられると思えば、楽しくてしょうがねえ。信長、謙信、信玄の首を取るついでに噂のお姫さんを手に入れれば、この祭りは最高の結末だな。」
越後へ向かう船の上で、毛利元就が楽しそうに部下に言った。
