
第15章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.中編

いつも付き添ってくれる幸村と家康以外にも、武将たちは代わる代わる舞の様子を見に来る。義元を筆頭に、信玄は甘味を大量に持参して、
「またこんなに隠してたんですか!」
と幸村に怒られた。謙信はうさぎたちを連れて来る。クールな謙信がうさぎと戯れる姿は何度も見ても不釣り合いで笑ってしまう。そんな舞に
「なにがおかしいのだ?」
と不思議そうに謙信が尋ねるのが、またおかしい。クスクスと笑い続ける舞に怪訝な顔をしながらも、その楽しそうな姿に謙信も笑みをこぼした。佐助が来れば、幸村と二人で漫才のようなやり取りで笑わせてくれ、皆が出陣するまでの十日間はそんな風に楽しく過ごした。
そして、いよいよ出立の朝。
甲冑姿の謙信、信玄、義元が舞の部屋を訪れていた。
「みなさん、無事に帰って来てくださいね。」
そう言う舞の表情は寂しそうだ。
「舞、ありがとう。憂い顔も美しいね。」
頓珍漢な義元。
「戻ったら、幸に内緒で一緒にたくさん甘味を食べような?」
そう言ってウィンクする信玄。
「戦では死なん。」
当たり前だと言わんばかりの謙信。
三者三様の姿に、なぜかおかしくなってしまった舞は
「みなさん、相変わらずですね。」
とクスクス笑う。
「「「……」」」
「…『相変わらず』って、何か思い出したのか?」
幸村が尋ねると
「えっ?あれ?よく分からないけど『相変わらずだなあ』って思ったの。」
「…そうか」
「ふっ」
「ふふっ」
舞の言葉に反応するそれぞれの顔に笑みが浮かぶ。『記憶がなくとも、舞の中に自分たちは存在している』それが分かって嬉しかった。
「何よりの餞別だな。」
そう信玄が言うと、二人も肯き
「では、行ってくる。」
と部屋を後にした。
ーーーその二日後。
今度は家康が出立する。
「怪我の処置は女中に指示してる。ずいぶん良くなってるから、痛まないようなら湯浴みもしていい。ただし、動き回るのは厳禁!移動は幸村に運んでもらって。絶対に無理はしないこと。分かった?」
事細かに告げる家康に
「クスクス。家康、秀吉さんみたい。って…秀吉さんて誰だっけ?」
そう答えた舞に、家康は目を丸くする。
「秀吉さんは織田軍の武将。舞にとって母上?のような存在。」
「えっ?男の人じゃないの?」
「男だよ。」
「じゃあ、なんで『母上』?」
「ぷっ。まあそれは、会えば分かる。」
そう言って笑う家康に舞も笑顔になる。
