
第15章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.中編

光秀の出立が決まった時に、幸村は舞の側に村正を置くことの許可を謙信に願い出ていた。室内に犬を入れること、犬と言っても大きな山犬を城内に入れることに良い顔はされないだろうと思っていたが、
「好きにしろ」
あっさり許可が下りた。それでも、城の者たちは怖がるかもしれないと、人目につかないように慎重に舞の部屋まで移動していたが、
「村正殿!」
「村正殿ではありませんか。」
村正を見かけた家臣たちは皆、嬉しそうに声を掛けて来る。
「怖くねえのか?」
不思議に思った幸村が、家臣の一人に尋ねると
「怖いなんて、とんでもありません!村正殿は舞様のお命を救った英雄ですから。お目にかかれて光栄です!」
と目を輝かせて言う。
「そっ、そうか。」
予想外の反応に驚く幸村だったが、村正が歓迎されていると分かってホッとする。
(それにしても…犬に『殿』って…)
ツッコミたいことは色々あったが、村正に群がって来る家臣たちを適当にあしらい、舞の部屋へと急ぐ。
部屋に入ると村正は舞の足元で伏せて寝てしまい、幸村は舞が眠る前と同じように手を握り、頭を撫でていた。
そして、現在に至る。
「村正が来てくれて嬉しい!」
満面の笑みで言う舞に
「おー。今夜からは寝る時は村正が側にいるからな。」
「ほんと?!」
「ウォン!」
「おー。」
「幸村、ありがとう。」
本当に嬉しそうな舞に、連れて来て良かったと安堵する。
今の舞にとって、一番の心の支えが村正だった。自分を守ってくれるその大きな存在が何よりも安心する。光秀不在の不安も帳消しになるほどだった。
そこへ
「お食事をお待ちしました。」
と女中がやって来た。家康の適切な処置のおかげで熱を出すこともなく、動けない以外はいたって元気な体は、それを聞いたとたん
グゥ〜〜
と鳴り出す。
「ぶっ。良かったな。」
吹き出す幸村と真っ赤になる舞。微笑ましい二人に女中の笑みも深くなった。
食事を終えた頃
「入るよ。」
義元がやって来た。
「調子はどう?」
優雅な笑みで尋ねる義元に
「義元さん!あちこち痛む以外は大丈夫です。」
笑顔で答える舞。
記憶のない舞と武将たちは、昨夜のうちに顔合わせを済ませていた。記憶のない舞にとって初対面の武将たちは怖い存在なのでは?と皆、心配していたが、なぜかすんなり受け入れ、打ち解けていた。記憶がなくとも、皆の存在で不安になることはなかった。
