
第14章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.前編

一方、舞の部屋では診察が行われていた。
「俺のことも覚えてないの?」
始める前にそう聞いて来た家康。
「…はい。すみません。」
「謝らなくていい。俺の名は徳川家康。武士だけど、医師でもある。今からあんたの体を診るから。」
「はい。家康さん、よろしくお願いします。」
「『家康』でいい。敬語も要らない。」
「はっ、はいーーうん。家康。」
「うん。色々診るけど、恥ずかしがらなくていいから。ちゃんと診ないと状態が把握できない。」
「うん。分かった。」
そう言うと、まず手や腕から診察を始める。擦り傷には傷薬、青痣には薬草を貼り包帯を巻く。
「次は脚。着物を捲って。」
そう女中に指示して、裾を捲らせる。
脚にも同じように擦り傷と青痣をみとめ、処置をする。
「今度は上半身。上衣を下ろして。舞、恥ずかしいだろうけど我慢して。」
褥の上に足を投げ出して座らせていた舞の上衣を女中が下ろす。それを見た家康は
「ーーっ」
顔をしかめた。
「あんた、これ相当痛むでしょ。」
家康の言うとおり、舞の鳩尾には青黒い痣。
「先に背中も診るから。」
そう言って背中を見れば、背中全体に広がる青痣と擦り傷。世話をする女中もあまりの痛々しさに目を背けた。
「背中もひどいね。頭に瘤もある。処置するから動かないで。」
そう言うと、家康はテキパキと手際良く処置を終えた。そして、敷布を何枚か持って来させると、何重かに敷き、その上に舞を横たえた。
「仰向けでもうつ伏せでも痛むと思うけど、これなら少しはマシでしょ?」
と言う家康に舞は肯く。
「じゃあ、次は記憶のこと。」
「うん。」
「いつからの記憶がないの?」
「分からない。」
「幼い頃のこととかも?」
「うん。」
「自分の名前は覚えてた?」
「ううん。みんなが『舞』って呼ぶから、分かった。」
「…そっか。逆に覚えてることは?」
「…なにもない。でも、ゆきむらさんとみつひでさんの名前は浮かんで来た。」
「…そう。覚えてないからって無理に思い出さなくていい。それよりもまずは、体の傷を治すことが優先。俺がいいって言うまで、絶対安静だからね。気持ち悪いだろうけど、湯浴みも我慢して。」
「…はい。」
そこまで話すと『熱が出るかもしれないから』と家康は薬を処方した。
「粥食べて、薬飲んで寝て。この薬には、鎮痛効果もあるから、痛みが今よりはマシになると思う。」
