第14章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.前編
そのうち眠ってしまった舞を背負ったまま、城へと到着する。城門には謙信、義元、佐助の他にたくさんの家臣たち。
「「「「舞様!!ご無事で良かった。」」」」
安堵の言葉を口にする皆の顔には笑顔が浮かんでいた。
「寝てるの?」
側に寄って来た義元が言う。幸村が肯くと
「本当に無事で良かった。」
そう優しく微笑むと、舞の頭を撫でた。
「もうすぐ家康が着く。傷を見せろ。」
謙信はそう一言告げ、城へと戻って行った。一見、冷たいようだが、その顔には安堵の色が浮かんでいた。
城内に入ると、安堵の歓声で目覚めた舞をそのまま湯殿へ運び、女中に預ける。家康が診るまで湯浴みはできないが、汚れた体を拭き、着物を着替えさせた。
湯殿から出た舞を部屋へと運んだと同時に
「舞っ!!」
焦った様子で家康が入って来た。その後ろには光秀の姿。傷だらけの舞の姿に眉を潜める二人だったが、
「無事で良かった。」
「あまり心配をかけるな。」
とホッとしていた。
そんな二人に
「…みつひでさん…」
舞がポツリと言う。
「なんだ」
光秀が返せば
「あなたの顔を見たら浮かんで来たから…。ゆきむらさんと同じ。」
と答える。事情を知らない二人が不思議そうな顔をするので、
「舞は記憶を失ってる。」
そう告げれば
「「ーーーっ!」」
二人は言葉を失くした。
家康に舞を預け、幸村と光秀は広間へと向かう。
「俺のせいで…すいませんでした。」
と詫びた幸村の胸ぐらを掴む光秀。拳の衝撃を覚悟して、目を閉じた幸村だったが、それは一向にやって来ない。不思議に思い、目を開けると
「来るまでは、お前をボコボコに殴ってやるつもりでいたが、お前のその腫れ上がった頬をみたら興が醒めた。誰にやられた?」
と掴む手を離し、ニヤリと笑みを浮かべて光秀が言う。
「…義元に」
そう答えると
「ほう。義元殿か。あのお方をそこまで熱くさせるとは、我が娘はなかなかやるな。」
と然もおかしそうに言う。
「……」
答えない幸村に
「幸村、二度目はない。」
笑みを消し、鋭い目で睨み付けるように言うと、光秀は先を行ってしまった。
その背中に、幸村は深々と頭を下げた。