第3章 時を越えて〜素性〜
「まず、結論から言うと、私はこの時代の人間ではありません。この時代の500年も後の世から自分の意思とは関係なく飛ばされて来ました。」
一気に告げると、
「はっ??」
と言う声が幾つか聞こえて来た。それを気にも止めずに先を続ける。
「私はあの日、所用で人に会うためと、旅行を兼ねて京都へ出掛けました。
あー、『京都』とは『京』のことです。京都に着いて、約束の時間まで観光をしていました。そして、本能寺跡地で突然の激しい雷雨に見舞われて気づいたら本能寺にいたのです。
500年後の世には本能寺の建物はなくて、跡地に石碑だけが立っています。だから、この時代に飛ばされて建物の中や外を見ても、それが本能寺だとは分かりませんでした。」
そこまで話して小さく息を吐く。
「信長様と本能寺を脱出した後、石田三成さんに会いました。私はその時のお二人を見て、私の時代で言う『俳優』という『お芝居を生業とする人』だと思いました。私が着ていた服を見たら分かると思いますが、500年後の世の服はこの時代とは全く違います。500年後では甲冑や刀を身に付けているなんていないし、着物自体が珍しいです。だから、お二人の格好を見てお芝居をする人なんだと思ったんです。
でも、お二人と話しているうちに違和感を覚えました。お二人の言動はお芝居をしているようには見えなかったし、言葉や景色が私のいた時代とは全然違ったからです。私の時代にはあって当たり前のものが何ひとつなかったから…。」
そう、電柱もアスファルトも車も高いビルも…見慣れた景色は何もなかった。
「そこで考えついた答えが『タイムスリップ』。時空を越える現象です。年号を聞いて確信しました。今は天正10年で西洋…南蛮の暦で言えば1582年。
私のいた時代は西暦20XX年ですから。それが分かって、自分の置かれた状況に恐怖して愕然とした私は気を失って…気付いたらここにいたのです。」
一気に話し終えて信長様を見るけど、不満気な様子。なぜか分からず首を傾けると
「本能寺の変。」
と短い一言。「ああ」と納得し、口を開く。
「本能寺の変…。すごく話しにくいんですけど…。私たちの時代で受け継がれている史実では
『1582年6月2日、本能寺で謀反を起こした明智光秀に追い詰められた織田信長は火を放って自害』
と言われています。それを『本能寺の変』と。」