第14章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.前編
「気になるなら聞くしかなかろう。」
信長が然も当然だと言わんばかりに言う。
「そうだな。」
それに同意する謙信。
「おいおい、二人とも。そう言うことは、おいそれと聞くもんじゃないだろう。舞の心の傷を抉ることになったらどうする?」
「「……」」
信玄の言葉に黙り込んだ二人だったが、
「それでも聞かぬことには分からん。」
そう言う謙信に
「いいか、謙信。女子という生きものはとても繊細なんだ。白黒はっきりしないと気が済まないお前の気持ちも分かるが、ここは温かく見守るのが優しさだぞ?」
信玄が宥めるように言っても
「ふんっ。見守るなど性に合わん。」
そう言って聞き入れなかった。
そしてーー
「お待たせしましたー。」
お茶を準備して戻って来た舞。全員に配り終えると
「では、私は部屋に戻りますね。」
「待て」
「えっ?」
下がろうとした舞を謙信が止めた。
「…謙信様?」
まだなにか用があるのかと、尋ねるように謙信の名前を呼ぶ。
「お前は…」
「はい。」
「お前には許嫁がいたのか?」
「えっ?」
いきなり核心を突く謙信に、信玄は『あちゃー』と額に手を当て天を仰いでいる。
「お前には佐助の前に許嫁がいたのかと聞いている。」
繰り返された謙信の言葉に驚いた舞。
「どっ、どうしてそれを…」
そこまで言うと、ハッとして
「佐助く〜ん?」
と佐助を恨めしそうに見た。
「ごっ、ごめん。言うつもりはなかったのに、心の声が漏れて…。」
珍しく焦る佐助に
「ふぅ。別に隠してた訳じゃないし話したって良いけど…。」
そう返し
「楽しい話じゃないですからね?」
謙信を見て言った。
「17歳の頃に両親の決めた方とお見合いして婚約したんです。私は明智家を継ぐので相手は婿養子に来る事が決まっていました。
その相手の方が3つ年上だったんですが…まあ、とにかく女癖が悪くて…。何度も浮気された挙句に浮気相手に子どもができたので破談になったんですが、別れた後はストーカーされて連れ去られそうになって…。最後は急所蹴りでやっつけたって話です。」
「「「「「……」」」」」
「ねっ?楽しい話じゃなかったでしょ?」
そう言いながら、傷付いたような顔をしている舞を見て、皆、心が痛んだ。
「…悪かった。」
謙信が謝ると
「大丈夫です。もう終わったことだから。」
そう言って舞は笑った。
「でも、お前は傷付いたのだろう?」