第13章 時を越えて〜分岐〜家康ver. ※R18あり
そんな舞は、安土城で針子として本格的に仕事を始めた。最初は針子仲間と共同で依頼品を作り上げていたが、その技術の高さから、武将たちの個人的な依頼を受け持つようになり、今は実質『織田武将のお抱え針子』となっていた。
今、取り掛かっているのは、信長の陣羽織。『毛利討伐の出陣時に着たい』と言われ、舞は作業を急ピッチで進めていた。今日も一番最後まで残り、作業に没頭する。そんな舞のところへ家康がやって来た。
「まだやってるの?」
「家康!来てくれたの?」
「俺が来ないと誰かさんは針子仕事に夢中で相手してくれないから。」
拗ねたように言う家康。
「ううっ。集中すると時間を忘れちゃって…ごめっ、大好き。」
「うん。俺も大好き。」
そう言って近付く家康の顔。舞は目を閉じる。
ーーチュッ、チュッ
針子部屋に響く水音。
長く、そして徐々に深く二人は口付けを交わした。
「それ、あとどのくらいかかるの?」
口付けの後、舞を抱き寄せた家康が聞く。
「うーん。あと四半刻くらいかな?今日中にここの刺繍を終わらせないと、出陣に間に合わないから。」
そう言って見せたのは、袖に小さく刺繍されている熊。
「くまたん?」
「そう。なぜか、信長様の中で『くまたん』がラッキーアイテムみたいで、『絶対入れろ』って。」
「らっきーあいてむ?」
「ああ、えっと…幸福を呼ぶもの?」
「ふーん。」
「信長様がくまたんの刺繍入りの陣羽織を着てるなんて、想像しただけでおかしくて笑っちゃうよね?」
そう言ってクスクス笑う舞。
「俺には?」
「えっ?」
「俺のには、『らっきーあいてむ』なかった。」
不満顔で言う家康。
信長より先に家康の陣羽織を仕上げ、渡していたが、確かに『ラッキーアイテム』となるものは刺繍してなかった。
「ふふっ、じゃあ家康のにも刺繍入れるよ。家康はなにがいい?」
「…舞。」
「えっ?」
「舞がいい。舞が付いてれば無敵になれる。」
「えっ?ええっ?!私って…。そんな…自分の顔を刺繍なんてできないよ…。」
真っ赤になりながら、困り顔で言う舞に
「じゃあ、りんご。舞と言えばりんごだから。」
「私と言えばりんご?」
「うん。りんごがあれば苦い薬も頑張って飲めるくらい好きでしょ?」
そう言って家康が笑う。
「ははっ、そうだね!じゃあ、りんごの刺繍にする。」
「うん。」
二人は幸せそうに笑い合った。