第12章 時を越えて〜舞の秘密〜
「そうかもしれません。そもそも、明智光秀自体が謎の多い人物だと言われています。出身地はおろか、両親が誰なのかもはっきりしません。妻子についても、側室はいなかったという説や逆に側室がいたという説、隠し子がいたという説もあって、本当に子が何人いたのかも分かりません。先ほど舞さんが、四男さんの子孫と言っていたので、息子が四人以上いることだけは事実でしょうが…。
とにかく、若い頃の記録がほぼないので、織田軍に来る前に足利義昭に仕えていたことより前は本当に不明です。一説によると武士になる前は医者だったとも言われていますし。」
「くっ、光秀らしい話だな。」
信長が笑った。
「舞が元の世に戻ったら佐助も戻るの?」
今度は家康が聞く。
「いえ、俺は戻りません。」
「…でも、夫婦になるんでしょ?」
「それは、さっきも言ったように俺の父が勝手に強行しようとしたことです。舞さんも俺と結婚したかった訳ではなく、恐らく…結婚することで『徳川』の保護を受けるのが目的だったんじゃないかと。」
そこで舞が口を挟む。
「うん。佐助くんの言う通り。結婚すれば『徳川舞』になるから、危険がなくなると思った。それに、家族ができれば一人じゃなくなる。決まった相手も好きな人もいなかったから、お世話になった徳川のおじさまへの恩返しもしたくて、結婚を受け入れたの。」
「俺たちの時代では結婚も自由です。ほとんどの人は愛し合う者同士で結婚します。家同士や利害関係の政略結婚がない訳じゃないけど、俺たちの場合は特殊中の特殊。会ったこともない相手とそのまま結婚するなんてありえません。
俺たちの時代は『一夫一婦制』で、一人の夫に一人の妻しか娶れません。生涯を共にするたった一人の相手さえ、父の言いなりになるなんてどうしても我慢できなかった。だから、俺は逃げようとしました。」
家康が更に聞く。
「でも、今なら?相手が舞だって分かってその舞が戻るって言ってるのに、それでも戻らないの?」
「戻りません。俺がこんな風に無表情になったのは家のせいです。幼い頃から、感情を表に出さないように押し殺して生きて来た俺は、表情が無くなりました。それが、この時代に来て4年の間に少しずつ良くなって、感情を言葉で現すこともできるようになったんです。元の世に戻れば、また以前の俺に戻るだけです。そんな俺といて舞さんが幸せになれるはずはないから。」