第12章 時を越えて〜舞の秘密〜
その怒りは最終的に『明智光秀』に向かったんです。彼が本能寺の変を起こさなければ、私の両親が死ぬことも、先祖が辛い思いをすることもなかったのに!って憎むようになりました。
だから、この時代に来て光秀さんに会った時も最初は憎かった。史実とは違う世界だと分かっていても『あなたのせいで!』と思わずにはいられなかった。でも、光秀さんに…光秀さん以外の武将のみなさんに接するうちに、その気持ちが薄れて行ったんです。
500年後とこの時代は全く違う。私の価値観とこの時代の人たちの価値観も全然違う。そう考えたら、本能寺の変を起こした明智光秀もそうしなきゃならない何かがあったんじゃないか?って思うようになりました。」
舞が微笑んだ。
「この時代に来て、私は両親が亡くなって以来、初めて『生きてる』と思えました。死にたかったくせに、信長様と本能寺から必死に逃げた自分は、本当は生きたいんだと気付きました。
この時代での日々が『楽しい』とか『嬉しい』という気持ちも笑顔も、私が失くしたたくさんのものを思い出させてくれたんです。いつも誰かが一緒に居てくれて『一人じゃない』って安心できました。
だから、春日山に来るまでは、この時代に残るつもりでいました。
私が明智の人間だってことは『私が言わない限り誰にも分からない』と思ったので…。あっ、でも、現代から持って来た懐刀をうっかり義元さんに見せてしまったりしたから、いつかバレたかも…。」
「ああ、だからあの時、舞はすごく焦ってたんだね。」
義元がおかしそうに言う。
「はい。どうやってごまかそうかと焦っていたのに、義元さんが突っ込まないでくれたのでホッとしました。
でも、一度見られた以上、変に隠すのは逆に怪しまれると思ったので、懐刀について聞かれた時には、『500年後で偶然手に入れた』とごまかすつもりでした。まあ、結局ごまかす前にバレちゃったんですけど…。」
そう言って舞はクスクス笑う。
「そして…春日山に来て、荷物の中にある文書を読んだ私は、明智光秀が本能寺の変を起こした理由を知って『やっぱり元の世に帰ろう』と思いました。
あんなに憎んでたのに、今は明智光秀を恨む気持ちはありません。逆に彼の子孫である事を誇りに思っています。
だからこそ『自分は帰らなきゃいけない』と『帰ろう』と思ったんです。」