第12章 時を越えて〜舞の秘密〜
「それから舞さんは、ご両親が生前『何かあった時は頼む』とお願いしていた、お父さんの友人や周りの人たちに助けられて何とか立ち直り、生きて来たんです。そしてーー」
佐助は長く息を吐く。
「そして、俺がどうしてこんなに詳しく知っているかと言うと、その友人が俺の父であり、俺と舞さんが夫婦になることが決まっていたからです。」
「えっ?」
たまらず誰かが声を発した。
「俺と舞さんがタイムスリップしたあの日、俺たちは見合いをする予定でした。見合いとは名ばかりの、婚儀に向けての顔合わせ。
それまで面識は全くなかったので、互いに互いが見合い相手だとは知らなかった。俺はこの時代で『猿飛佐助』と名乗っていたし、舞さんは『水崎舞』だと名乗った。『舞』と言う名前は現代では珍しいものではないので、自分の見合い相手である『明智舞』と同一人物だなどとは思いもしませんでした。」
佐助はさらに続ける。
「俺は…俺の家族が嫌いでした。
父はいつも一方的に命令し、俺の意見に耳を貸してはくれなかった。母はそんな父の言いなりだったし、二人の兄は父への鬱憤を俺で晴らしていた。息苦しくて何の幸せもない家が俺は大嫌いでした。
そんな父に一方的に告げられた婚儀の話を聞いて、俺はタイムスリップを決意しました。父の思い通りに動かされる人生なんてもう真っ平だった。だから、あの時、見合い相手に会う前にタイムスリップして父から…家から逃げようとしたんです。
後はご存知の通りです。」
舞が再び口を開く。
「両親の事件が起こった後、私は何も考えられませんでした。この後の人生をどう生きて良いかも分からなくて、いつも『死にたい』と思っていました。
ついに限界が来て熱で倒れて生死を彷徨って…。
その時に私を救ってくれた看護師さんに言われました。『死ぬことはいつでもできるけど、死んだ後に生きたいと思ってもやり直せない。あなたのご両親は生きたかったと悔やんでいるはず。その気持ちにあなたが応えなきゃ。ご両親の分まで生きて。』って。
そのおかげで『もう少し頑張ってみよう』って思えるようになって、実家に荷物整理に行ったり、葬儀の時に『いつでも頼って』と言ってくださった徳川のおじさまに連絡をしたりしました。
それでも、両親を亡くした悲しみは癒えなくて、その悲しみがいつしか怒りに変わっていきました。最初は、両親を殺した犯人たちに。そして…