第12章 時を越えて〜舞の秘密〜
「…熱が出たのは…」
「舞、もう休め。」
横になった舞が話そうとすると、謙信が止める。
でも、舞は首を横に振って続けた。
「病のせいで熱が出たのではありません。恐らく、精神的なもの。」
「…書類を読んだせい?」
「うん。ショックだったから…。前にもあったの。」
そこで舞は一旦、言葉を止める。
「両親が亡くなった時。その時は二週間くらい高熱が続いて、薬も効かなくて…。『もう少し長引けば死んでた』ってお医者さんに言われた。だから、今回もその時と同じだと思う。」
「………」
「その時も今回も…意識が戻った理由は『人』なの。熱に浮かされた意識の中で、声が聞こえた。」
「声?」
「前の時は…看護師さん。あっ、看護師さんって言うのは、お医者さんのお手伝いをする人。目を覚まさない私の手を握って、毎日毎日『大丈夫ですよ』って声を掛け続けてくれたの。そして、今回は、誰かが『舞、早く目を覚まして。頑張れ。目を開けて。』って一生懸命に声を掛けて頭を撫でてくれた。」
「…それって…」
「家康だよ。一生懸命、声を掛けてくれたのは家康。家康の声で戻って来れた。」
「俺と義元さんは、黙って見てるだけだったから…。」
悲しそうに言う佐助。
「ううん。声が聞こえなくても、二人の気持ちは伝わってた。でも、その時はまだ眠ってたかったの。眠ってたかったのに、家康が何度も『目を開けて』って言うから、『ああ、起きなきゃ』って。」
「…その言い方だと、俺が眠りを邪魔したみたいなんだけど。」
不貞腐れたように言う家康に舞が笑う。
「ふふっ。確かにそうだね。ごめんね。」
「結果、意識が戻ったからいいけど。」
「うん。目が覚めて家康の顔が見えて、謙信様が温かくて…。それで、良かったって思ったの。『目が覚めて良かった』って。ひとりぼっちじゃないって思った。」
「……」
「だから、家康にも謙信様にも佐助くんにも義元さんにも…信長様にも信玄様にも三成くんにもお城の方々にも、ここにいない秀吉さん、政宗、幸村…そして光秀さん。みんなに『ありがとう』って言いたくて。『一人にしないでくれてありがとう』って伝えたかったの。
ーーみなさん、ありがとうございました。」
そう言って、涙を浮かべて微笑む舞は、誰もが息を呑むほど美しかった。
そして
「元気になったら全部話します。」
そう言って、舞は目を閉じた。