第7章 言えぬ思い〜信長編〜
「.........うっ、母上.....私も.. .....連れてって」
熱にうなされながら眠る空良の口から、久しぶりにうわ言が聞こえて来た。
本能寺から連れ帰った夜から、俺に抱かれて眠りにつく夜以外、空良は毎晩同じうわ言を繰り返してうなされていた。
母親の夢でも見ているのであろう。俺の腕の中で眠りながら空良は手を伸ばし、ひたすらに連れて行ってくれと乞う。
それがここ最近は無くなっていたのだが、辛い出来事が空良の心を弱らせ、振り出しに戻した。
空良の心を欲しがり功を焦った結果だ......
「空良だめだ。行かせはせん、戻ってこい!」
その手を掴み強く抱きしめ、俺は空良を呼び起こす。
「っ.......、あ...........」
俺の声で悪夢から目覚めた空良は、現実と夢との狭間で、俺に問いかける。
「なぜ......殺したの?...父上、母上....ごめんなさい私は......」
何かに懺悔するように、空良は苦しそうに顔を歪め俺の腕の中で再び眠りに落ちる。
天下布武を唱え邁進してきた中、第六天魔王と異名がつくほどに人の命を奪って来た。俺に刃向かう者達もことごとく......
空良が何処より参った者なのかまだ分からぬが、恐らく、俺が奪った数多の命の中に空良の両親がいるのであろう。
初めて心惹かれた女は、俺を殺したいと俺の命を奪う為に放たれた刺客。これも、数多の命を散らした俺への報いなのかもしれぬ。
だがそれでも構わん。
「貴様は既に俺の手の内だ」
振り出しに戻ったのなら、また初めからやり直せばいい。
「空良..........」
熱で熱くなっている唇にゆっくりと己の唇を重ねる。
「次は失敗はせぬ」
じっくりと時間をかけて貴様の心も手に入れてみせる。
貴様が死にたいなどと言わぬ様に、俺から離れたいなどと思わぬ様に、極上の快楽で貴様を縛ってやる。
俺はもう、貴様に出会う前の俺には戻れぬのだから。