第47章 来年の今頃は 〜お正月sp〜
「きゃあっ、ははー、みてー」
大晦日から降り続いた雪は安土一帯を銀世界へと染め上げ、新年を迎えた安土城の本丸御殿で、私は庭で雪だるまを作って遊ぶ吉法師を布団の中から眺めていた。
「吉法師あまり走っては転ぶわよ」
子供は風の子と言うけど本当だ。
滅多に積もらない雪に吉法師は夢中で遊び続ける。
「ははー、あそぼー」
侍女との遊びに飽きてきた吉法師は私を誘い始める。
「ごめんね。今日は気分が優れなくて、そっちへは行けないの」
私は現在、二人目の子がお腹にいて、しかも悪阻の真っ最中で動けずにいた。
「やだーー、ははとあそぶー」
吉法師は二歳児ならではのイヤイヤを発動させる。
「吉法師様、母上様を困らせてはいけません。お次は私とかまくらを作りましょう」
侍女が気を利かせて何とか吉法師の機嫌を治そうとするけれども、二歳児は中々一筋縄ではいかない。
「やだ〜っ!ははとあそぶー」
わあんっ!と本格的に吉法師は泣き叫び出した。
「……分かったわ。じゃあ少しだけね」
中々吐き気の治らない胸を抑えて布団から出ようとした時、
「吉法師、空良を困らせるな」
お膳を片手に持った信長様が部屋の中へと入って来た。
「ちちっ!」
「信長様っ!」
信長様の姿を見て私たち親子は歓喜の声を上げる。
「ふっ、二人して犬のようだな」
私たちの反応を見て顔を崩して笑う信長様はとてもカッコよくて、私の大好きな旦那様だ。
「空良、具合はどうだ?」
膳を私の前に置いて信長様も腰を下ろした。
「吐き気はずっと続いていますが、正月早々寝てばかりもいられませんのでそろそろ起きようかと…」
「無理はするな。どうせまた何も食べておらんのだろう。粥を作らせたが食べられるか?」
信長様は土鍋の蓋を開けてたまご粥を私に見せてくれた。
「……っぅ、すみません。見るだけでも気分が…」
むわんっとした湯気と香りに、少し落ち着いていた吐き気がぶり返す。