第45章 夢が見せる奇跡 〜年末年始特別編〜
そして……
「信長、達者で暮らせ。貴様が天下を取る日を遠い地で見守っている」
「はっ、必ずや天下布武を成し遂げて見せます」
「楽しみだな。その時はまた祝いの酒を持って来るとしよう」
ぽんっと息子の肩に手を乗せ、父上様は朗らかに笑った。
「空良 」
父上様が私に振り向く。
「はい」
「信長を頼んだ。美しい娘が出来てこの信秀も鼻が高い」
「父上っ!」
信長様はその言葉にまた反応し私の肩を抱き寄せる。
「ふっ、うつけも愛を知ったか。だがそれ程に大切な女ならば仕置きなどせず大切に愛でよ」
「………っ!」
父上様知って……!
鋭い突っ込みに、私も信長様も言葉に詰まってしまった。
「世話になったな、楽しませてもらった」
そう言って馬に跨ると、父上様は家臣と共に安土城から去って行った。
・・・・・・・・・
・・・・・
・・
目が覚めた………
夢というにはあまりに現実的な夢で、目を開けたままぼーっと豪華絢爛な天主の天井をしばらく見つめた。
漸く今が現実だと思えて来て信長様を見ると…
「どうやら、同じ夢を見たようだな」
私を見つめそう言った信長様の言葉で、全てを理解した。
「はい。信長様の父上様にお会いできて良かったです」
そして、父上様の前では城主や天下人ではなく一人の息子であった信長様もとても素敵だった。
「それにしても未だに許せん」
夢の余韻に浸る私に信長様は覆い被さり不機嫌に呟く。
「え?」
「夢とは言え貴様が俺以外の男に酌をするなどやはり腹立たしい」
「ええっ!夢なのにっ!」
「あれ位では気持ちは治まらん、続きをさせよ」
「やっ、でもお父上様が仕置きはするなって…」
信長様もそう言われてシュンとしてたはずっ!
「これは仕置きではない、”愛でる”だ。父上の教え通り貴様をこれより愛でる事とする」
「なっ!」
なんという切り替えの速さっ!
あの夢の中のしおらしい信長様はどこへっ!
けど、
「っ、じゃあちゃんと仕置きではなく愛でて下さいね?」
夢の中で抱かれた余韻で私の体もまだ熱は燻っている。
「言われずとも、余すとこなく愛してやる」
優しい口づけを合図に愛し合う時間が始まる。
信長様を支えて父上様に安心して頂こうと、今年一年の抱負を胸に甘い時間に溺れていった。