第40章 叶えられていく思い 再会
「………っ、母上は…なんて?」
拭っても、拭っても、涙はもう止まらない。
「貴様を愛していると、必ず幸せになれと、そう伝えてほしいと、言っておった」
「……っ、…うっ」
「貴様に出会った時の衝撃でこの伝言自体を長い事忘れておったが、確かに今、貴様の母からの伝言を伝えたぞ」
「はい。ありがとうございます。うぅーーー」
嗚咽を漏らし顔をぐちゃぐちゃにして泣く私を信長様は抱きしめた。
『必ず生きて、幸せになりなさい。人を愛し、愛される日がきっとあなたに訪れます。あなたを何よりも愛しみ、強く愛してくれる殿方の姿が私には見えるのです』
私の母上の最後の言葉は、ずっとこの言葉だったけど、
『空良忘れないで。私も旦那様も、いつだってあなたの事を愛してる。かならず幸せになりなさい』
今日からは、この言葉も大切な母上からの最後の言葉として私の心に刻まれた。
「そろそろ泣き止め、明日の祝言に泣き腫らした顔で出たくはなかろう?」
「…うぅ、信長様が泣かせたんですよ?」
兄上との再会に始まり、父上と母上の遺骨、そして、聞きたかった言葉まで……こんなの、泣くなと言う方が無理でしょう?
「貴様を妻とする前に、貴様の憂いは全て取り除いてやりたかった。それに、貴様を妻にもらうと、貴様の両親にも言っておきたかったからな」
信長様はそう言うと、吉法師を抱っこしたまま母上達のお墓となる墓所に手を合わせて目を閉じた。
「信長様……うぅっ…」
「だから泣くなと言うに…」
「だって…そんな信長様…泣くに決まってます…うぅ」
吉法師を手に抱き私の両親に手を合わせる信長様の姿がとても綺麗で、何よりも嬉しくて、泣くなと言う方が無理だ。
「私、本当に幸せです」
幸せで、幸せで、本当に幸せで…それ以上の言葉が思い浮かばない。
「ふっ、それは俺のセリフだ」
涙を拭っていた指は、やがて唇へと変わり、私の頬のあちらこちらへと口づけを落とす。
「貴様が俺の隣にいて笑う。俺にとってそれ程に幸せな事はない。これからは、俺の側で生涯笑い続けよ。空良、貴様を愛してる」
「私も愛してます……っ、んっ」
優しく、愛しい唇が私の唇を塞いだ。
祝言は明日、私たちは恋仲最後の逢瀬をとても幸せな気持ちで過ごした。