第39章 台風一過 後編
「信長様、お待たせ致しました」
客人を帰した空良がスッキリと晴れやかな顔で俺の元へとやって来た。
「終わったか」
「はい。あ、ごめんなさい。お話し中でしたね」
空良は、日饒を見て軽く頭を下げた。
「此奴は日饒、この寺の住職だ」
「そうなんですね。前に少しお話をした事がって、…ええっ!御住職だったんですかっ!?そうとは知らずあの時はご無礼をっ!」
空良は分かりやすく体を跳ねて驚きを体現した。
「ふっ、無礼を働いたのはこ奴の方だ、貴様が謝ることでは無い」
「えっ?どう言う意味ですか?」
「分からんでいい。それよりも、貴様の荷物がこの寺の裏山で見つかったと言って、日饒が持って来てくれた」
先程日饒が置いた荷物を指差し、空良に伝える。
「……っ、荷物が…見つかったんですか?」
空良は目を大きく見開くと荷物の元へ行き、籐籠の蓋を開けて中身を確認した。
「………っ、どれも傷一つ付いてない。……ああ、良かった。また一つ、大切な物が戻って来てくれた」
中身を一つ一つ撫でるように確認する空良の瞳からは、やはり綺麗な雫が落ち、その綺麗な雫を俺は指で拭った。
この先も空良の涙を拭うのは俺だけの特権で、誰にも渡すつもりはない。そんな優越感に浸っていると、出立の準備が整ったと家臣が呼びに来た。
「出立の時間だ。空良、準備は良いな」
「はい」
「良い返事だ。安土に戻ったら、次こそは貴様の声が枯れるまで抱いてやる。覚悟しておけ」
本当に、今度こそこの滾る想いを遂げさせてもらう。
「………っ、覚悟しておきます」
真っ赤に染まる奴の顔に見惚れながら、奴の唇を奪う。
この先空良の進む道は、空良の涙同様全てが綺麗である様に、俺は奴を今度こそ全身全霊で守ると誓い、俺たちは当初の予定よりかなり長い京での滞在を終え、安土へと戻った。