第38章 台風一過 前編
満開の桜の木の下で抱き合っていると、冷たい風が吹き始め、辺りの景色も夕焼け色に染まり出した。
「……そろそろ行くか」
空良の温もりをまだ感じていたいが、病み上がりの身であまり無理はさせられない。
「はい。……あの、信長様。今日は連れて来て頂き、ありがとうございました」
泣き腫らした目で笑う空良の顔は、出かける前と比べ、すっきりとしている。
「貴様と京の街をまだ散策していなかったからな。今度は美味い物でも食べに連れて来てやる」
「はい」
「いい返事だ」
愛らしく返事をする空良に、俺の手は自然と伸びて奴の顔を引き寄せる。
「……ぁっ、……んっ!」
奴の唇をこじ開け舌を差し込めば、奴の吐息が顔にかかり、更に俺を煽り立てる。
「っは、………っ、ん」
ダメだと分かっていながらも、元気を取り戻し始めた愛しい女の唇は甘く柔らかで………
「んぅ………」
奴が気を失いそうになるほどに濃厚で長い口づけをして、俺たちはその日、花見を終えた。