第37章 母の思い
「.....................母....上」
「空良っ!」
歪んだ空間から目覚めて最初に目に写ったのは、愛おしい人の顔.........
「空良っ、俺だっ、分かるかっ!?」
「............っ、信長様..............?」
戻って..来た.......?
「っ.................信長様.........私.......うっ......」
川の上から見るよりもやつれた信長様の顔を見たら、戻って来られた嬉しさと、そしてもう二度と母上に会えない悲しみとの狭間で、何と呼んで良いのか分からない涙が止めどなく溢れた。
「どうした、どこか痛むのか?」
「違っ........っ」
本当に、母上は逝ってしまわれた。
二度も命を助けられ、二度も永遠の別れをしてしまった事に心が痛くて悲しくて、涙が止まらない。
「......誰かっ、医師を呼べっ!」
信長様が外に向かって叫ぶ。
こんなに慌てた信長様は初めて見るかもしれない。
そんな愛しい人を抱きしめたいのに、何故か身体が錘のように重くて、手が動かない。
「.......信長様」
「どうした?どこが辛い?」
「どこも辛くは.......でも....」
「何だ、何でも構わん、申せっ!」
「..........っ、私を......抱きしめて下さい」
「空良?」
「温もりが…心が寒くて……っ、私を強く抱きしめて下さい」
「っ.........分かった」
何かを察した様に、信長様はそれ以上は何も言わずに私の横に横たわり、ゆっくりと私を抱きしめてくれた。
とくんとくんと、信長様の鼓動が聞こえる。これこそが生きている証で、母上にはもうなかったもの。だからこそ私を抱きしめる事が出来なかった。
「うぅっ…………」
それでも、最後に母上に抱きしめてもらいたかった。
「ふっ、…っう、…うぅっ……」
もう叶わない事だと知っていても、体は無意識に温もりを求め愛しい人の体温に縋り付く。
やがてたくさんの温もりを信長様から感じた私の心は徐々に落ち着きを取り戻し、やっと戻る事ができた愛しい人の腕の中で再び眠りの中へと落ちていった。