第5章 心の内
「今日は軍議の後城下の視察に出る。昼は一人で食べよ」
朝、支度を終え朝餉を食べ終えた信長は、軍議に向かう為部屋を出る前に私に言った。
「.............はい」
「?何だ、言いたいことがあるなら言え」
信長はニヤリと口角を上げながら私の腰を引き寄せる。
「........べ、別に、どうせならいつも三食別々で食べたいと思っただけです」
私を見張るために一緒に食べるんだろうけど、やたらと見つめられたり悪戯されて、食べた気にならない。
「ふっ、朝から可愛いことを言うのはこの口か?」
「は?.....んっ」
不敵な笑みで私の顎を掬い上げると壁に押し付けられ口を塞がれた。
「ん、.............っ、ふっ、...........ん、」
この男には、何を言っても通じない。
嫌味を言っても、言わなくても、口づけられて終わり。会話にならない。
「っん.............」
朝から部屋に響く水音は、確実に私の思考を麻痺させ力を奪って行く。
「っ...............」
やがて力が抜けて壁を引きずる様にずるりと落ちた。
「夕餉は一緒に食べる。それまでは大人しく待て」
信長はそんな私を見て嬉しそうに笑うと、ちゅっと、軽く私の頭に口づけ部屋を出て行った。
襖越しにチラリと外を見れば、やはり見張りはいる。
この変な関係を人はどう呼ぶのだろう?
命を狙う者と狙われる者?
城の主人と侍女?
身体は重ねなくても、褥を共にし口づけを受け入れる私の心の臓はもうずっと煩いままで、休まる時がない。
「...............こんな事なら、牢に閉じ込められ拷問を受けた方がよかった」
まだ整わない呼吸を必死で整えながら、私は独り言ちた。