第31章 京宴 後編
祝賀会はつつがなく取り行われ、信長様は益々帝からの信頼を得る事になった。
朝廷の根回しもあり、この日ノ本を一つに束ねる為の会談が、四国、中国、畿内の主な大名達と朝廷の重鎮達で話し合われる事になり、数日を予定していた滞在期間を伸ばして 信長様は今日も朝早くから朝廷へと出廷された。
お寺にいる時でも信長様は休む間もなく人と会われ会食をしと、慌しく政務をこなされている。
一方の私はと言うと、
「空良様、終わりました」
「はい。では、次のお部屋に行きましょう」
日々修行僧達とお寺の掃除をしている。
なので、はっきり言って今の私と信長様は、安土にいる時と何ら変わりはない。
朝餉を共にし、日中はお互いに仕事をして、夜になると褥を共にする生活。
ただ一つ大きく違う事といえば........
「あら、この部屋まだ汚いんじゃない?」
「まぁ、本当!埃があちらこちらに.....」
「掃除も満足にできないなんて、女中以下ね!」
そう、....ここには、信長様のご正室候補として滞在する三姫がいると言う事......
名だたる武将や公家の血を引く姫達の迫力は半端なく、突然のダメ出しに修行僧達を震え上がらせる。
けれど、幸か不幸か、私の周りにはいつだって、ちょっと個性の強い勇猛果敢な武将たちと、日ノ本一俺様な信長様がいたから、
「姫様方、おはようございます。今日も良い天気ですね」
この位で震えは来ない。
「良い天気ではあるけど、あなたを見たせいで気持ちは曇り空に変わったわ」
「そうよ、良い天気なんて無駄口を叩いてないで、掃除に集中しなさいよ!」
「私達に挨拶なんて生意気ね!立場を弁えなさいよ!」
このやり取りも何だか日課の様になって来たけど、何かを言おうものなら倍以上返しをされ、それはそれで面倒臭い。
それにしても、高貴な人や天下を取ろうと言う人は、集中と言う言葉が好きなんだろうか?(信長様にも言われたばかり....)
でも、丁度いい。この言葉を使わせてもらおう。
「はい。そうします。助言、ありがとうございます。では掃除に集中致しますので失礼します」
一人が口を開くと連動した様に他の二人も口を出してくる為、私は”集中”を理由に頭を下げてその場を離れた。