第30章 京宴 中編
「何故ですか?お腹の子に危害が加えられぬ様、私が全力でお守り致します。ご心配なさる事は何もございませんわ」
私の心を察知して麻は力強い言葉をくれる。
「うん。麻の事は頼りにしてる。でも私はこの滞在中にやる事があるし、このお腹の子を理由に甘えたくないの」
まだ私の戦いは始まったばかりで何もしていない。
「ですがその体調では......」
「もちろん無理はしない様にするし、少しでも体調が悪くなれば休むから。信長様にも時期を見てちゃんとお話をする。だからお願い、麻の協力が必要なの」
信長様の隣で共に進むと誓った未来の為、そして奇跡の様に私のお腹に宿ってくれたこの子の為にも頑張りたい。
「生まれてくるこの子が胸を張って生きていける様に、私は皆に認めてもらいたい。でも今日まで全然気が付かなかったから、この子は怒ってるかもしれないけど.........ふふっ、今まで気づけなくてごめんね」
お腹をさすっても何の変化もないけど、不思議な事に、愛おしい気持ちはどんどん溢れてくる。
「分かりました。ですが約束して下さい。決して無理はしないと」
「うん。約束する」
「空良様はもう信長様だけでなく、安土の民にとっても大切なお方です。ご正室となられる空良様のそのお腹の子が男の子であれば嫡男となり、信長様の跡を継ぐ事になるのです。もう、お一人のお身体ではございません」
「麻..........そうだね。もう、一人の体じゃないよね。私が母になるなんて......」
「きっと日ノ本一、素敵な母上様になられます」
再び握ってくれた麻の手の温もりに、母上の温もりを思い出した。
『必ず生きて、幸せになりなさい。人を愛し、愛される日がきっとあなたに訪れます。あなたを何よりも愛しみ、強く愛してくれる殿方の姿が私には見えるのです』
母上が言う通りに、私は信長様に強く愛され愛する事を知った。
そして、あの日、母上が命をかけて守ってくれたこの命を繋ぐ子がこのお腹の中に.......
「空良、おめでとう」
母上の楽し気な声が聞こえた気がして、私は何度もありがとうございますと、心の中で唱えた。