第28章 歯車
京への出発を明日に控え、全ての準備を終えた私と信長様は、久しぶりに二人の時を天主で過ごしていた。
「お酒、もう少し飲まれますか?」
「いや、いい。それよりも膝を貸せ」
空になった盃を膳に置いた信長様は、私の膝の上に頭を乗せると、ごろんと横たわり目を閉じた。
(疲れてるのかな?)
信長様の口から疲れたと聞いた事はないけど、ここ最近の信長様はいつにも増して多忙だったから、疲れていないはずが無い。
それに、こんな風に膝枕をするのも久しぶりで....、愛しい人の髪を撫でると、きゅんっと、甘い擽ったさが身体中に広がり、自分の頬が緩むのが分かった。
「どうした。そんなにニヤけた顔をして?」
いつの間に目を開けていたのか、信長様は私を下から見ながら口角を上げる。
「に、ニヤけてなんか.......ただ、こんな風に一緒に夜を過ごせるのは久しぶりで.....その....嬉しいなぁって.....」
自分で言っていても恥ずかしくて、顔が熱くなるのが分かる。
「なんだ、煽っておるのか?せっかく、久しぶりの貴様の膝を堪能しておるのに....」
信長様は困った様に笑うと、私の膝を撫でながら再び目を閉じた。
「でも、....明日の夜にはもう、京にいるんですね」
信長様の髪をもう一度触りながら、わたしは明日からの京の事を思う。
「ふっ、今から緊張しておっては身が持たんぞ?」
「そ、そうですけど....」
「この数日間、貴様はでき得る限りのことを良くやった。あとはいつも通りに振る舞っておれば何も問題はない」
「は、はい!私、教えて頂いた通りに頑張りますっ!」
やる気を込めて前のめりな返事をすると、目を閉じたまま私の脚を撫でる信長様の口の端は、可笑しそうに上がった。