第27章 逢引き
「案ずるな。茶には甘味が付き物であろう?貴様を少し味わうだけだ」
悪戯な声で囁くと、かぷっと耳を食んだ。
「んっ!」
少しとは、どこまでを少しと言うのか教えてほしい。声を堪える方には都合と覚悟が必要な訳で...
「っ、信長様......もう本当に、だめっ!」
自分が濡れ始めていることが分かる。このままだと本当に流されてしまいそうで、ぶんぶんと頭を振った。
「往生際の悪い奴め。だが、こうして逢引きするのもいいものだな?」
信長様は私の反応に目を細め、これを逢引きだと言った。
「っん!.......はぁ、逢引きって............」
全然人目も忍んでいなければ、秘密の場所でも無いけど.........
「日中は中々会えぬからな。これはこれで悪くない」
「んっ」
唇が重なる。
「っは、...んっ、.......」
舌を絡ませるたび、水音と私の吐息が漏れて、恥ずかしいのにもう抗えない。
「っ..........ぁっ、...ん」
信長様は言葉でも沢山愛を伝えてくれるけど、本当はこの口づけだけで愛されている事を実感できて、私は簡単に蕩けてしまう。
辛い事や、不安な事、全てがこの口づけ一つで帳消しにされてしまう。
「ん............」
ちゅっと、音を立てて唇が離れると、まるで私の気持ちの様に名残惜しそうに銀糸が伸びた。
「次の逢引きはこれ位では済まさぬ」
大好きな人は、満足げな笑みを浮かべて私の鼻先をツンッと突いた。
「えっ!」
また心の臓に悪い事を.....それにこれは逢引きとは言わないんじゃ.......
「ふっ、そんなに喜ぶな」
「困ってるんですっ!」
「くくっ、揶揄いがいのある奴め」
さっと立ち上がると私の方を見て少し屈み、私の着物の乱れを直しながら、ちゅっと軽く口づけられた。
「麻が部屋に入って来る前に、その蕩けた顔を戻しておけ」
「だっ、誰のせいだと」
「さぁ、分からんな」
嵐の様な愛おしい人は、悔しいほどかっこいい笑顔を私に向けて、部屋から出て行った。
京への出発まであと僅か。
慌ただしくも、幸せで甘い準備期間を私は過ごしていた。